大学における実務化教員育成の位置づけを考察した前回に続き、

参考にしたのは、同じく「専門職大学の課題と展望―社会人などの多様な学びを支えていくために」(以下、「本書」)です。

実務家教員に求められる実務卓越性

こんにちは。MBAの三冠王ことシンメトリー・ジャパン代表の木田知廣です。私のように長く人材育成の仕事をしていると、世の中の「講師」と呼ばれる人をたくさん見てきました。その観点から実務家教員について考えてみました。

まず本書の「実務家教員の資格要件」と題したパートでは、「実務卓越性」と言う観点から大学側が求める実務か要因の要件が3点にまとめられています。

  1. その職務が職務(職種)とは違う独自な知識や技術の体系を持っていることを意識的に確認できている
  2. 同時に社会的に貢献できているという自信を持っている
  3. 当該の職務が将来、どういう発展の展望を持っているかについて、少なくても10年以上の展望を持っている

しかし、これを満たす実務家教員の候補者はきわめて少なくなる、というか、ほぼ皆無でしょう。とくに3番目の要件は難しいものです。「VUCAワールド」とも呼ばれる、環境の変化が激しく不確実な中で、「10年以上先の自分の仕事の状況」を展望するのは、きわめて困難です。というか、誠実な人であればあるほど、「分からない」と答えることになるでしょう。

実務家教員に求められる教育的卓越性

同様に、

  • 教育的卓越性
  • キャリア的卓越性
  • 研究的卓越性
  • 保有資格

で解説されている要件も、なかなか厳しいものです。一例として、「教育的卓越性」で求められる要件を挙げてみましょう。

以下の項目のいずれか(できれば複数項目)に該当するような、教育的な業績を残していることが必要であろう

とした上で7つの項目が解説されています。

  • 臨地実務実習の指導者として、学生たちからの評価が高かった
  • 職場でのOJTに関して特別な実績がある(当該本人が担当した新人のOJTでは、その後辞めた人がきわめて少ない等)
  • 当該の職場でのOff-JTの指導者として実績を上げてきた
  • 当該の職務(職種)に関する業務のマニュアル作成を行い使われている
  • 当該の職務(職種)での抜きん出た力量によって、多くの人に影響を与えている
  • 当該の職務(職種)での抜きん出た力量によって、アドバイザーとしての役割を担っている(具体的な職位や職務内容として)
  • 当該の職務(職種)に関連して、職場外で研修や講習の指導者を務めている

この複数項目を満たすビジネスパーソンは、少数派になってしまうでしょう。

優秀な実務家教員候補を見逃すリスクも

別の観点から、上述の七つの教育的卓越性を考察します。実は、この多くを満たす職種として、人事部などで社内研修を担っているビジネスパーソンが考えられます。あるいは、大手企業の中には、研修のための専門部署(あるいは別会社)を設けているところもあるで、そのような部署で働いている人も対象となるでしょう。

ところが、多くの場合、社内研修を担当している人といえども体系だった教育法を学んでいないというのが日本の実情でしょう。ひとつの比較材料として、米国における、ビジネスパーソンが体系的に教育法を学ぶ機会を見てみたいと思います。米国最大の人事交流組織ATD (Association for Talent Development)においては、「Preparing for the CPLP: Instructor-Led Workshop」「Project Management for Learning Professionals Certificate」などと題された講座が数多く提供されています。もちろん、そのクオリティにはやや疑問が残りますが、少なくとも社内研修の担当者が体系だった講座を受講する機会があるかないかという点では、日米で大きな違いがあるのは間違いありません。

※CPLPはCertified Professional in Learning and Performanceの略称で、ATD公認の人材育成に関するプロフェッショナルと認められるための資格

このような状況において、社内研修の担当者を実務家教員候補として想定すると、その仕事はしているけれど、実力はイマイチ」という人までも採用してしまいかねません。逆に言えば、「実力はあり、教育法を身に付ければよりよい実務家教員になれる」ビジネスパーソンを候補者から除外してしまうリスクです。

したがって、大学側が考える要望は要望として理解しつつ、あまりにもそれに縛られずに本質を見抜いて採用することが必要になるのでは無いでしょうか。

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この記事を書いた人

MBAの三冠王木田知廣

木田知廣

MBAで学び、MBAを創り、MBAで教えることから「MBAの三冠王」を自称するビジネス教育のプロフェッショナル。自身の教育手法を広めるべく、講師養成を手がけ、ビジネスだけでなくアロマ、手芸など様々な分野で講師を輩出する。

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