無印良品と言えば、内実もイメージも「いい会社」。その内実を知るべく手にとったのが、松井忠三先生のご著書「無印良品の、人の育て方 “いいサラリーマン”は、会社を滅ぼす」です。確かに素晴らしい会社に見えますが、そこにリスクはないのでしょうか?

人材育成ポリシーが無印良品のコア

こんにちは。MBAの三冠王こと、シンメトリー・ジャパン代表の木田知廣です。無印良品といえば、「いい会社」としても知られていて、Grate Place to Work Institute Jpaanによる「働きがいのある会社ランキング」では、30位以内の常連だとか。それを表すように退職率も低く、本部社員では5%以内に収まっているとのこと。卸・小売業の平均的な離職率が14.4%と比較すると、この数字のすごさが分かるでしょう。

この理由は様々あれど、根底にあるのは人材活用のポリシーであると思います。

実力を的確に評価する制度を整えつつ、終身雇用で社員に安定した生活を保障する環境をつくろう

と言う言葉で説明していますが、単純な成果主義ではなく、かといって年功序列でもない独自の考え方を実践されているようです。

そして、それを実現する大木は二つの柱が、MUJIGRAM (ムジグラム)と呼ばれるマニュアルと異動(ジョブローテーションです)。

MUJIGRAMは以前紹介した「書評 松井忠三著、無印良品は、仕組みが9割 仕事はシンプルにやりなさい」で詳しく説明されている無印良品を支えるマニュアル集です。本書では、人材育成とからめて、

作業を教える前に、まずは作業の目的を教えるのがMUJIGRAMの特徴です。「目的」を教えることは、無印良品の理念や哲学を、現場の作業を通して教えることでもあります。一つひとつの作業を通して無印良品の考え方を教えるうちに、理念や哲学が体に染みこんでいく。そうやって無印生まれ・無印育ちの社員は育っていくのです。

と説明されています。

無印良品の人材育成のキモは異動

もう一つの異動は、ズバリ、

異動で人材育成の8割が決まる

と言い切っています。その理由として著者の松井先生は、下記の5項目を挙げています。

  1. 確実なキャリアアップ
  2. チャレンジ精神の維持
  3. 多様なネットワークの広がり
  4. 他人の立場への理解が深まる
  5. 視野を広げられる

これをさらに理解するために、松尾睦先生が著書「部下の強みを引き出す 経験学習リーダーシップ」で提唱されている部下の強みを伸ばすアプローチで考えてみましょう。このアプローチでは、部下の強みを伸ばすためには適切な(その部下が力を発揮しやすい)仕事をアサインして成功体験を積ませる。それを振り返ることで実力を養うという方法論です。

ただ、この「適切な仕事」がひとつの部署内では必ずしもアサインできないこともあるでしょう。たとえば、経理や財務などの数字を扱う部門では、ある人がどれだけ能力があったとしても、「細部へのこだわり」がない人は実力を発揮できないでしょう。そのような人は異動によって、より自身が力を出しやすく、強みを伸ばしやすい仕事に当たる確率が高くなります。

他にも、

人の根本的な性格は、教育しても変わるものではない

とか(61p)、

人の短所は「直らない」と心得る

とか(203p)、本書の著者の松井先生は、松尾先生のアプローチと極めて似た考え方で人材育成を運営していたと読み取れます。

均質性が高い組織にはリスクも

一方で、本書を読んで疑問に思ったのは、ここまで均質性の高い社員ばかりでいいのか、という点です。著者の松井先生は内部の育成にこだわりがあるようで、

私の経験則で言うと、中途で採用した人は、多くが数年後に辞めてしまう傾向があります。

と言う言葉に代表されるように(26p)、中途採用には否定的です。そうすると、上述の教育の効果と相まって、社内が似たような人材ばかりになってしまう懸念があるのではないでしょうか。

ビジネスの環境が安定的ならば、それでもいいでしょう。しかし、環境変化が激しい中では、異なる価値観や行動規範の人材がいないというのは、リスクになり得ます。たしか、Sorensenの論文だったと思いますが、

強い文化がもたらすルーティンの実行力は業績を安定させる機能を持つが、環境変化が激しい条件下ではかえって業績を低下させたり、不安定にしたりする危険を伴う

と言う指摘があったはず。

本書の発行は2014年。それ以降、ビジネスを取り巻く環境はますます変化が大きくなっている気がします。ひょっとしたら、いま現在の無印良品では、環境変化に合わせて人材育成のポリシーとプラクティスを変えているのかもしれません。


画像はアマゾンさんからお借りしました

この記事を書いた人

MBAの三冠王木田知廣

木田知廣

MBAで学び、MBAを創り、MBAで教えることから「MBAの三冠王」を自称するビジネス教育のプロフェッショナル。自身の教育手法を広めるべく、講師養成を手がけ、ビジネスだけでなくアロマ、手芸など様々な分野で講師を輩出する。

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