最近注目が集まっている大学での実務家教員。その育成について考察しました。

実務家教員が求められるのはリカレント教育と同じ流れ

こんにちは。MBAの三冠王ことシンメトリー・ジャパン代表の木田知廣です。私は米マサチューセッツ大学のMBA過程で教えていることもあり、日本の大学における実務家教員に興味を持っています。今回たまたま「専門職大学の課題と展望―社会人などの多様な学びを支えていくために」(以下、「本書」)を読む機会があったので、いろいろと考えてみました。

まず本書のテーマである専門職大学とは。これは、2019年4月から生まれた新しい高等教育機関です。そこでは、「必要専任教員のおおむね4割以上は、実務家教員とする」と定められているそうです。なお、この規定をしたのは「28中教審答申」です。(平成28年5月の中央教育審議会答申「個人の能力と可能性を開花させ、全員参加による課題解決社会を実現するための教育の多様化と質保証の在り方について」の前半をなす、「第一部 社会・経済の変化に伴う人材需要に即応した質の高い専門職業人養成のための新たな高等教育機関の制度化について」)

大きな流れとしては、世の中の変化が激しくなるにつれ、社会人にも再教育が必要であるとのリカレント教育と同じ流れであると理解しました。実際、28中教審においても、

最先端の実務に携わりつつ教育に当たる教員を確保するため、そうした者を、一定の条件の下、必要専任教員数に参入できるしくみ(いわゆる「みなし専任」)も活用する

と謳っています。

実務家教員にまつわる課題

一方で、実務家教員を採用し、適切な講義を行ってもらうためには様々な課題があると本書は指摘しています。第一は、

優れた実務家だからといって、優れた「教育」者であるとは限らない

という点です。教育というのは、通常のコミュニケーションとは異なるスキルが求められ、まさにこの点は課題になるでしょう。また、

数年で教えている実務とそのときどきの実務の間に乖離が発生してしまうということである。これでは、理論と実践の架橋を図ることは容易でない

との指摘もあります。これを乗り越えるために、3-5年おきに実務に戻ることや、週に2日だけを教員として教える制度などを提案していますが、現状においては難しいでしょう。なぜならば、「実務」を担うのは一般企業であり、5年に1回戻ってくる社員を受け入れるのは難しいためです(ましてや、その人が1年在籍したのみで、また実務家教員に戻ってしまうならばなおさら)

期待値が高すぎると同床異夢の危険も

上記を踏まえて、本書においては、実務家教員の役割を、

イノベーターでありクリエーターであり続ける

と期待していますが、これはいささか過剰でしょう。一般企業においてもイノベーターを探すのは難しいというのが、いまの日本の現状です。大学側の期待値が高くなると、採用された実務家教員がそれに応えるのは難しくなり、「同床異夢」の危険性も懸念されます。むしろ、実際のビジネスの状況を教えてくれるのが実務家教員の役割であり、そのためにも教育に関するスキルをしっかりと身に付けてもらうように育成するというのが現実的な落としどころではないかと思います。

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この記事を書いた人

MBAの三冠王木田知廣

木田知廣

MBAで学び、MBAを創り、MBAで教えることから「MBAの三冠王」を自称するビジネス教育のプロフェッショナル。自身の教育手法を広めるべく、講師養成を手がけ、ビジネスだけでなくアロマ、手芸など様々な分野で講師を輩出する。

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