MBAによる経営者研修ではソフトスキルが軽視されている

MBAによる経営者研修の源流」でも触れたとおり、約100年前に設立以来、MBAには外部からの批判にさらされ、それを乗り越えることで進化を続けてきました。当然、今もMBAに対する批判はあります。その最たるものは、「ソフトスキルが軽んじられている」というものです。

ソフトスキルは、リーダーシップやコミュニケーション、あるいはファシリテーションなどの「本人にその力があるのか否かの判定が難しいスキル」を指します。逆のハードスキルは、たとえば資格。○○の資格を持つ、というのは分かりやすいですし、その背後には資格試験で○点以上を取得した、という測定があります。あるいは、ファイナンスなども、「この企業の価値をNPV (Net Present Value: 現在価値)で測定せよ、のような数字で「あっている、あっていない」が判断できるものも含まれます。前者のソフトスキルは教えにくいものですし、教えた結果として受講者のスキルが上がったか、上がっていないかが判定しにくいので、MBAでは軽視されているのではないかという批判です。

経営者研修で問われるビジネス倫理

同様に、MBAにおいてはビジネス倫理が軽視されているのではないかという批判も続いています。有名なところで言うと、「エンロン事件」。巨額の不正行為が行われた事件ですが、それを主導した元CEOのジェフリー・スキリング氏はハーバード・ビジネススクールのMBAホルダーであり、これを材料としてビジネス倫理の教育が不十分であるとの指摘がなされています。

もっとも、この批判はやや牽強付会で、その大学を卒業した人が悪事を犯したら、その大学の教育が悪いとなってしまうと、世の中の多くの大学は「悪い」教育を提供していることになってしまいます。たとえば、2021年、経済産業省の若手官僚が逮捕されました。キッカケとなったのは新型コロナウイルス対策の「家賃支援給付金」をだまし取ったとの疑いです。金額としては一千万円ぐらいですから、経済産業省のキャリア官僚という人生を棒に振るにはずいぶんと「せこい」犯罪と言えます。

ところが、これを根拠に「慶應義塾大学の教育は悪い」、「東京大学では倫理教育がないがしろにされている」という批判は起こりません。であれば、「ビジネススクールでは倫理教育が十分ではない」という批判も的を外れたものと言えるでしょう。

学習指向が求められるこれからの経営者研修

一方で、最初に紹介した「ソフトスキルが軽視されている」という批判は妥当です。とくに、昨今のように環境変化が激しくなった中、計画から実行への境目が曖昧になり、計画しながら実行する、実行しながら計画の修正をするという行動が求められます。すなわち、これからの組織に求められるのは「実行指向チーム」ではなく「学習指向チーム」です。

そのような変化の中、MBAホルダーといえども「計画だけをやっていれば良い」という態度は許されません。むしろ積極的に実行に責任を持ち、そのためにもソフトスキルで周りの人と協働を図る必要があります。したがって、これからのMBAには、ソフトスキルの充実が求められるでしょう。

この記事を書いた人

MBAの三冠王木田知廣

木田知廣

MBAで学び、MBAを創り、MBAで教えることから「MBAの三冠王」を自称するビジネス教育のプロフェッショナル。自身の教育手法を広めるべく、講師養成を手がけ、ビジネスだけでなくアロマ、手芸など様々な分野で講師を輩出する。

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