私は、「日本にいながらアメリカのMBAをとれる」と話題のマサチューセッツ大学のMBAプログラムで教鞭を執っています。
マサチューセッツ大学MBAはハイブリッド型
マサチューセッツ大学MBAプログラムは、オンラインで学位が取れることが特徴です。とはいえ、日本人がいきなりオンラインの環境「だけ」で受講するのは現実的ではないでしょう。そこで、日本人学生はまず日本人だけで集まって日本語による教育を受ける機会が提供されています。
個人的には「ハイブリッド(混合)型」と呼んでいますが、オンラインとオフライン(対面)の融合、英語と日本語の融合が、マサチューセッツ大学MBAプログラムの魅力の一つです。
というか、このカリキュラムの恩恵を受けている学生さんがちょっとうらやましくなりますね。というのは、クラスメートと日本語でディスカッションできるのは大きな学びにつながるから。「学生」と言ってもみな社会人ですから、様々な業界、様々な経験をお互いに提供し合うのでは、単に座学で学ぶ以上の大きな気づきにつながります。
私の場合、いきなり海外のロンドン・ビジネススクールでMBAを受講ししたのですが、「もっと英語ができていれば、学びが深くなっただろうに…」という後悔の念は今でももっています。MBAの授業に出ていると、教授の言っていることはだいたい理解できるんです。相手だって、「分かりやすく話そう」と意識していますからね。でも、学生同士のグループワークになると、自分の言いたいことも言えないし、相手の言っていることも、理解できたのは40%ぐらいかなぁ、という感覚があります。
ちなみに私、TOEICでは630点(当時の紙ベースで)、GMATでは700点のスコアなので、純日本人としては英語ができる方だと思います。これですら、ネイティブのディスカッションにはついて行けないわけですから、多くの日本人の方は苦労するところでしょう。
これを乗り越えて、ハイブリッド型でまずは日本語でMBAで学ぶ内容そのものを理解するというのは、マサチューセッツ大学MBAカリキュラムの大きなメリットでしょう。
議論の作法が身につくマサチューセッツ大学MBAプログラム
ハイブリッド型で対面の授業があることのメリットのもう一つは、「議論の作法」が身につくことだと思います。というのは、日本人って、議論が下手なのです。
- 参加者それぞれが勝手な論点を述べているだけで、かみ合っていない
- 誰かのアイデアの粗を見つけて指摘はするが、対案がないので議論が進まない
- そもそも意見が出ない (出すための工夫がない)
などは、実際に会社の会議で経験したことがある人も多いのではないでしょうか。
こんな日本人が欧米のMBAプログラムにいきなり進むと、もう、ボコボコです(かつての私もそうでした)。グループワークで何か意見を言おうものなら、他のMBAの学生からの質問攻めに遭います。たとえばケース・メソッドを題材に、ある一人に人物を評価するシーンを考えてみましょう。
私:この主人公は、マネージャーとしてイマイチだと思うな
Aさん:それはなぜ?どういう根拠に基づいて判断しているの?
私:だって、この人が担当する部署は、赤字のままじゃないか…
Bさん:結果だけで判断するのはフェアじゃないよね。むしろ大事なのはそこに至るプロセスなんじゃない?
私:……
そう、実は日本人は「自分の意見を根拠をもって述べる」、「相手の意見に反対があったら別の解決策を述べる」など、議論の基本動作ができていないのです。
そこで、マサチューセッツ大学MBAプログラムの私のクラス、組織行動論では、グループワークもアサインメントと呼ばれる毎回の予習課題も、ロジカルな発言をするように、ロジカルに書くように指導しています。実際、多くの場合、予習課題で「何を言っているか分からない」学生が、だんだんと書き方を身につけて、最後には素晴らしいレポートになります。ここまで来ると、「この人なら、欧米人とも対等に議論できるベースができている」と安心して送り出すことができます。
マサチューセッツ大学MBAプログラムのレポート実例
このアサインメントを実例で紹介しましょう。第6回のクラスのテーマは「リーダーシップ」ですが、下記のような予習課題を事前にまとめて提出してもらいます。
あなたが一緒に働いたことがある人の中で、異なるタイプのリーダーを二人選んで、その違いを説明してください。どちらの方がリーダーとして優れているか、部下の視点、顧客の視点、株主の視点から評価してください。 もし可能ならば、Week5,6で学ぶ理論であなたの発見を説明してください
いかがでしょう?このようなレポートをまとめてきた学生同士がクラスルームでディスカッションすれば、様々な学びが発見できると言うことが想像できるでしょうか?
日本人はどうしても、「リーダー」と聞くと力強く組織を引っ張る人物像を描きがちですが、実はこれは誤解です。むしろ、「状況依存性」と言っていますが、
- どんな部下がいるのか?
- その部下との関係性は?
- どのような仕事なのか
- 自身に公式な権限はあるのか?
などによって、様々なリーダーシップ・スタイルを使い分けるべきと言うのが、欧米を中心に研究されたリーダーシップ理論の結論です(詳しくは、私がプレジデント・オンラインに寄稿した記事を読んでください)。
学生同士が議論しながら、「ちょっと待てよ、いいリーダーって何だろう?」、「自分(部下)にとってのいいリーダーと、株主から見たいいリーダーは違うのかも?」、「ということは…」、と議論が進んでいく醍醐味は、一回体験すれば「やみつき」となるような体験です。