実務家教員育成を考える三部作、締めくくりです。最後に解決するためのアイデアを考えました。
授業だけじゃない実務家教員の役割
こんにちは。MBAの三冠王ことシンメトリー・ジャパン代表の木田知廣です。前回、前々回にひきつづき、「専門職大学の課題と展望―社会人などの多様な学びを支えていくために」(以下、「本書」)を参考に、実務家教員育成を考えてみました。今回は本書の「実務家教員に求められる役割」と題されたパートで挙げられている下記7点の項目です。
- 職務分析能力
- 学生の力量分析能力
- 教育課程編成・授業実施能力 (Off-JT実施能力)
- 学生の個別学習支援能力
- PDCAを回す能力
- OJT(実務指導)能力
- 臨地実務実習先開拓(分析)配属等、調整能力
注目すべきは、「授業実施能力」は悪魔での種々の能力の一部であるとされている点です。大学の教員と聞くと、授業をするというイメージが一般的でしょう。しかし、実際のところは、授業を含めて様々な活動で学生の成長を導く役割であるというのは頷けます。
ちなみに、ビジネスパーソンの人材育成、すなわち研修においてもこれは同様です。研修もまた、その当日何を話すかに注目が集まりがちですが、実際のところはその前後まで含めて考えるべきです。
インターンシップ先発掘も実務家教員の役割?
一方で、上述のリスト7番目の「臨地実務実習」については、なかなかハードルが高いと感じます。これは要するにインターンシップ、それも採用活動の一環としてのそれではなく、本来的な意味での実務を行うというものでしょう。しかし、現在の日本の企業社会においては、インターンシップの受け入れ先を探すのは、相当難易度が高いでしょう。しかも、受け入れ先を見つけるだけでなく、
当該受け入れ先や受け入れ先の実習指導者が適切かどうかを分析し、その職場に適した学生を受け入れてもらうという能力が求められる
とある本書の指摘に従うならば、難易度はいっそう上がります。
この点においても、大学側の要望は要望として理解した上で、「そうは言っても、実務家教員といえども、臨地実習先の開拓は難しいですよ」という実情を話して、期待値をすりあわせていくことが求められるでしょう。
本書においても、米国におけるコーオプ教育(Co-operative Education)、ドイツにおける事例、フランスのグランゼコールやHEC校などが紹介され、どのようなインターンシップが学生にとって、そして実務家教員にとってベストなのか模索されています。様々な知恵をもちよった結果、何かいい解決策が見つかると良いのですが…。
解決案としての実務家教員留学制度
本書を読むにつけ、大学に期待される役割が変わっており、それに対応して大学側も変わろうとしていることを感じます。ただ、一方で大学側の期待値と実務家教員を輩出するビジネス側の実態が乖離しているところも感じました。
この乖離を乗り越えるアイデアとして、「実務家教員留学制度」のようなものを作ってはどうかと考えました。これは、
選ばれた人が実務家教員になる
という発想を転換し、
実務家教員をやった人の中から選ばれた人が残る
というものです。つまり、企業に対して、「毎年○人の実務家教員候補を大学に○ヶ月間派遣(留学)すること」というものを課すのです。もちろん、その際には実務家教員としての教えるためのスキルを体系的に学ぶ場を提供します。派遣された実務家教員は、たとえば3ヶ月間実際に授業を含めて様々な活動を行い、適性を判定します。この判定をクリアした人が、たとえば2年間の任期を切って実務家教員として活動します。
もちろん、この実務家教員留学制度にも、難しさはあります。しかし、いきなり採用して期待値と違うというリスクよりは、ソフトランディングで、しかも大量の実務家教員を確保できる可能性があるのではないでしょうか。
この記事を書いた人
木田知廣
MBAで学び、MBAを創り、MBAで教えることから「MBAの三冠王」を自称するビジネス教育のプロフェッショナル。自身の教育手法を広めるべく、講師養成を手がけ、ビジネスだけでなくアロマ、手芸など様々な分野で講師を輩出する。
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