あのビル・ゲイツ氏が最近のTEDで批判した「ある職業」をご存知でしょうか?

それは、「教師」。

いわく、「教えるスキルを向上するためのフィードバックの仕組みがないのは致命的だ」、と。

たしかに、教育ほど、提供者がフィードバックを受ける機会が少ない職業はまれかもしれません。

レストランだって「食べログ」でコメントされるし、出版はAmazonの書評欄で星いくつという形で厳しい評価にさらされます。なのに、「相手にどう伝わったか」が最も問われる教育が、なぜ評価にさらされないの、という疑問はごく自然に沸き起こります。

ただ、教育って、評価が難しいんですよね。本質的に。

たとえば、あるセミナーをやるとします。それこそ、「2時間で決算書の見かたを学ぶ」というのを。

これが「良かったか、悪かったか」は、評価者によって大きくブレるのが悩ましいところ。

つまり、知識のない人にとっては「分かりやすく説明してくれて、すごく良かった」と高い評価を受けるセミナーが、知識のある人~たとえば簿記を勉強している人~にとっては「説明がまだるっこしくて、時間の無駄と感じた」となってしまうのです。

実際、冒頭に紹介したビル・ゲイツさんもこのような、評価者によってブレるという教育特有の難しさは認識していて、”UNFORTUNATELY, there is no international ranking tables for teacher feedback system”と表現しています(2’10″あたり)。

このために、「識字率」を持ちだしてプレゼンを進めているわけで、そのココロは評価者のレベルを揃える(つまり、識字率ゼロの人が、どこまで学習効果が上がったかを測定する)、という意図があったかと想像します。TEDの動画を見た時には、「なんで『識字率』なんてベタな指標を持ちだしたんだろう」と疑問に思われた方もいるかもしれませんけどね。

さらにビル・ゲイツさんのTEDでのプレゼンが面白かったのは、教育の質を改善する提言として、”Measures of Effective Teaching” (MET: 効果的な教育法)を紹介しているところ。

御存知の通り、ゲイツさんは活動の領域を自身が創業したマイクロソフトからフィランソロピー(社会貢献活動)に大きくシフトしています。理事を務める「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」は、300億ドル(3兆円)を超える財政基盤と、1,000人近い従業員を抱えていると言われ、先ほどのMETも、単なる提言を超えかなりのインパクトを持つプロジェクトになると想定されます。

翻って、日本の教育の現場においては、どうなんでしょう。学校教育においては研究授業が盛んにされているし、塾においても講師の育成は重点がおかれているとは思いますが、どちらかと言うと個々の先生のがんばりに負うところが多く、組織だった改善プロジェクトになっていない気がします(逆に、そういうのがあったら教えてほしい)。

なんだかすでに米国が一歩先を言っている気がする教育改革、その差を広げられてしまうとしたら危機感を覚えますね…

なお、METに関して付け加えるならば、現状行われているビデオによるセルフフィードバックの有効性は認めた上で、「教える中では何が正しい行動なのか」が決められていると、劇的な改善につながります。

スポーツなんかもそうですが、自分のプレーのビデオを見るだけじゃ不十分で、本当はコーチから、「ここは良かった、ここはダメだった」と指摘を受けるのがスキルアップには必要なのです。

8月4日に開催するイベント、講師日本一決定戦E-1グランプリは、そんな、講師としての「ここは良かった、ここはダメだった」という判断軸を共有するのを「裏」テーマにしています。「表」のテーマは、イベントとして楽しもう、なのですが、そんな裏テーマも頭の片隅にとどめて参加してもらえると、一層イベントとして有意義かもしれません。

この記事を書いた人

MBAの三冠王木田知廣

木田知廣

MBAで学び、MBAを創り、MBAで教えることから「MBAの三冠王」を自称するビジネス教育のプロフェッショナル。自身の教育手法を広めるべく、講師養成を手がけ、ビジネスだけでなくアロマ、手芸など様々な分野で講師を輩出する。

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