「反転授業」という言葉、聞いたことがあるでしょうか?東京大学の山内祐平先生によると、
説明型の授業をオンライン教材にして事前学習の宿題にし、従来説明型の授業後の宿題にされていた演習や応用課題を教室で、対面で行う学習形態です。
とのことで、従来はサブの位置づけであった演習や応用問題を教室のメインの題材にしようと言うことで、「反転」と名付けられています。ちなみに英語で言うとFlipped Classroomで、Flipはコイントス(coin flipping)なんかにも使う言葉です。まるでコインの裏表が逆になったというニュアンスに託して伝えたいもう一つのメッセージは、生徒と教師の反転だと個人的には思っています。すなわち、従来であれば教える教師がクラスの中心だったのが、学ぶ生徒が中心であるべきだという世界観の逆転です。
この反転授業、これからの学習形態を変えていくぐらいのインパクトがあると期待されていますが、最初に聞いた時には「なにそれ?要するにケースメソッドでしょ」と思ってしまいました。
ケースメソッドは、ハーバード・ビジネススクールで開発された経営者のための学習方法で、
- 教科書を読んで知識を獲得
- ビジネスの状況を描いたケースを読んで、知識がビジネスの現場にどう活かされているかを考察
- クラスルームで考察に基づいた議論をすることにより学びを深める
- 復習により学びのポイントを頭に焼き付ける
という順序で学びが進んでいきます。これ、まさに反転授業そのものですが、始まったのは1900年代初頭とも言われ、既に確立された教育手法となっています。まあ、マニアックな話になると、日本式のケースメソッドは、欧米発のそれよりも良くも悪くも精緻化されてしまっているんですけどね。「悪くも」というのは、精緻化されたが故に、ケースメソッドの重要な要素である「自ら学びを見つける」というポイントが抜けてしまいがちだから。まあ、ここら辺の話はいろいろあるので、チャンスがあったらべつの機会に書きます。
さて、話を戻して反転授業。前述の通り、最初に聞いた時には何を今さらと思ってしまいましたが、ちょっと調べてみるとそうでもないことが分かりました。
というのは、HBSをはじめとしたビジネススクールでケースメソッドが機能しているのは、優秀でやる気がある学生が集まっているから。その前提条件がないと反転授業は機能しないわけですよね。事前の予習なしにクラスに来られても先生も困っちゃうし。
ここに反転授業という言葉が最近脚光を浴びている理由があります。対象になっているのは高校生や4年生大学生のような若年、かつ意欲が必ずしも高くない学習者。彼らにもにも上述の世界観の逆転をしてもらい、能動的な学習者になってもらいたい、というのが反転授業の究極の目的でしょう。実際、米国における反転授業の先端的な試みは、高校の化学の授業ではじまったとも言われています。「化学ぅ?かったりーよなー」といってる生徒を、能動的な学習者にするのはさぞ大変だったことでしょう。
そのための工夫の一つが、予習段階を動画でやろうというもの。教科書を読んでくれない生徒でも、動画にすれば見てくれるのではないか、という発想でしょう。結果として、今や反転授業という言葉には、「事前の動画学習」がほぼほぼセットで付いてくる感じです。
一方で、ケースメソッドに話を戻すと、総本山とも言えるハーバード・ビジネススクールではむしろ対面での教育を重視しているようです。DIAMONDハーバード・ビジネスレビューに掲載された副学長のルイス・ビセラ教授のインタビュー記事によると、
そもそも、授業には2種類の教え方があります。ひとつは教授の話を聞いて理解し、帰って復習するというリアクティブ(受け身)型です。この形式であればオンライン授業にリプレイスすることは可能です。しかし、HBSのクラスはすべてプロアクティブ(能動的)型で展開されます。
とのこと。動画による学習派、否定されているわけではないのですが、あくまでも副次的なものとの位置づけ。
少なくともしばらくの間は、この位置づけが逆転するわけではないでしょう。ただ、動画というフォーマットをどのように学びの全体像に取り込むかは、テクノロジーの進化とともにますます課題になっていくかと思います。
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この記事を書いた人
木田知廣
MBAで学び、MBAを創り、MBAで教えることから「MBAの三冠王」を自称するビジネス教育のプロフェッショナル。自身の教育手法を広めるべく、講師養成を手がけ、ビジネスだけでなくアロマ、手芸など様々な分野で講師を輩出する。
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