講師として人前で話すときには、「受講者からの質問にはなんでも答えなければ」と思いがちですが、意外とそうでもないかも、という提言がされています。
そのココロは、講師自らが「自分にも知らないことがある」ことを認め、その知識を獲得する姿勢を見せることは、受講者にとっていいモデルになるのではないか、ということ。理論的背景になったのは、バンデューラの模倣学習。有名な社会心理学の実験なんで知っている人もいると思いますが、子供の前で暴力的な行為を取ると、子供はそれをまねて暴力的な行動をとることが多くなったというアレですね。
大人と子供の学習の差
ただこれ、バンデューラの実験も3-5歳の子供を対象にしたそうだし、今回の元になったThe Chronicle of Higher Educationのアーティクル、「Modeling the Behavior We Expect in Class」も大学の先生向けなので、大人の学習者に対して有効かどうかは微妙ですけどね。
実際あったんですよ。私のセミナーで、受講者からの質問に適切に答えられなくて、不満の要因になったってコトが。当社は満足度保証制度といって、セミナーの内容に不満足の場合は全額返金するというのがあるんですが、それになっちゃいましたからね。この制度、実際のところは利用率は低くって、過去8年間、35,000人ぐらいの受講者の中で4件ぐらいしかないんだけど、その中の一つです。
ということは、大人の学習者に対しては、「プロフェッショナルとしてどんな質問にも答えられる」というモデリングの方がいいかもしれないですね。
失敗した「社会化」
もっとも、上述の満足度保証制度の話は別の見方もあって、「そもそもこのセミナーはどんな場か」が講師と受講者のあいだで共有できていなかったことが原因とも考えられます。というのは、私のセミナーは、「知識を獲得する場」というよりも、「考え方を学ぶ場」という側面が強いんですよ。だってそうでしょ?単なる知識の獲得ならば、本を読めばいいわけで、本や動画だけでは身に付かない考え方の変化をもたらすのが対面でのセミナーの目的なわけで。
これまた心理学の用語では「社会化」といったりしますが、ある集団がどのような規範で運営されているかを、新しく来たメンバーは理解するというプロセスは、セミナーの受講者の立場でも行われます。ウチのセミナー講師養成講座の参加者の方ならばご存じの通り、ボスザル効果とITEM法もこの社会化のための一つの手段ですね。
これによって、「ここでは知識よりも考え方が大事なんだ」という規範を理解・内面化してもらう必要があるのですが、これが失敗していたかな、と。逆にいえば、この社会化が適切にできているならば、「講師は意外とアホでいい」というのは、大人の学習においても当てはまるのかもしれません。
講師をやっている方は、どうなんでしょう。受講者からの質問に答えられなくて困った体験とか、逆にそれがきっかけでいい学びになったとかあるんですかね。
、「社会化」に失敗したともとれます。
Photo by Michael_Lehet
この記事を書いた人
木田知廣
MBAで学び、MBAを創り、MBAで教えることから「MBAの三冠王」を自称するビジネス教育のプロフェッショナル。自身の教育手法を広めるべく、講師養成を手がけ、ビジネスだけでなくアロマ、手芸など様々な分野で講師を輩出する。
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