「強く願えば、必ずかなう♪」と無邪気に信じられない、汚れちまった大人向けの目標達成法がWOOP (ウープ)です。果たしてその実体は…

ホンモノの目標達成はWOOP

目標達成の一流派として、「その目標を強く願いなさい」というものがあります。あるいは、「その目標を達成するまでの自身のストーリーを、まるで映画のようにイキイキと描くこと、なんてのもいわれています。

ただ、これは必ずしも科学的には証明されていないそう。いや、それどころか、

将来についてただ夢見るだけでは、その夢や願いが叶いにくくなることが確認されている。

と言う大胆なことを言っているのが、ガブリエル・エッティンゲン先生のご著書、「成功するには ポジティブ思考を捨てなさい 願望を実行計画に変えるWOOPの法則」です。

著者のガブリエル先生はこう続けます。

夢を見るという心地よい行為によって、人は頭の中で願いをかなえてしまい、現実世界で困難を切り抜けるために必要なエネルギーを吸い取られてしまうようだ。

と。もちろんこれは、様々な心理学上の実験によって検証されています。

そして、著者のガブリエル先生が開発した、単に夢見るだけに変わる手法がWOOP(ウープ)というもの。具体的には、下記の頭文字を取ったものです。

  • Wish (願い):私生活または仕事上の願いか心配事
  • Outcome (結果):願いを達成する、または心配事を解決することから連想される、最善のことは何だろう
  • Obstacle (障害):邪魔している一番重大な心の中の障害を見つけよう。このエクササイズのポイントは、自分の夢の実現を自分ではばむ「内面の障害」を取り除くところにある
  • Plan (計画):もし障害Xが起きたら、行動Yを起こすというフォーマットで計画を立てる

WOOPって目標達成?

本書を読み進めるにしたがって、WOOPと言う手法に対して若干の違和感を感じてきました。というのは、これって「目標達成」の方法論ではないと思うんですよね。むしろ、セルフコーチング的に、「自分が本当に大事にしたい価値観」を明らかにする手法ではないかと。

いくつか文章をピックアップすると、

メンタル・コントラスティングがもっとも適しているのは、人を弱らせる、強力ないわれのない不安である

人はみな、熱意は感じるがわざわざ深く考えることのない、微妙で複雑な願いを抱いている。…心の奥にある感情的な願いを掘り起こすのに、WOOPのエクササイズそのものが必要なことも多い。

などなど。不安や微妙な願いを明らかにして、それを乗り越えるための第一歩の行動を自分に起こさせるという点では優れていますが、「大きな事を成し遂げたい」という目標設定ではないと感じました。

WOOPへのもう一つの違和感は、その検証手法です。本書には様々な実験が説明されていますが、被験者として学生を扱ったものがきわめて多くなっています。これって、サンプル(標本)として偏りがあって、万人向けの方法論として主張するには無理があります。個人的には「ホワイトバイアス」と呼んでいますが、

  • 白人で、
  • ある程度の裕福で、
  • 向学心が強く
  • 社会経験がない

と言うカテゴリーに当てはまらない人に、本当にWOOPが有効かどうかはさらなる検証が待たれます。ちなみに著者のガブリエル先生はドイツ人だそうで、ドイツでの研究結果にも言及されていますが、ホワイトバイアスを免れるものではないでしょう。

WOOPを部下育成に使う

ただ、冒頭に述べた、ポジティブ思考で夢見るだけでは目標を実現することができないという指摘は、興味深いものです。なので、自分が本当に大事にしたい価値観を明らかにするという割り切りの元であれば、WOOPを試すのはありだと思います。実際、著者のガブリエル先生が言うには、

なぜ、毎日WOOPをすることが重要なのかというと、ひとつには、変化する状況と結果にあわせて願いを微調整する十分な機会が必要だからだ。

とのことなので、継続的にやっていくと、新しい発見があるかもしれません。

あるいは、これをコーチング的な手法に落とし込んで部下の育成に活かすのも有効そうです。指導育成というのは必ず部下の行動変容を含んでいるじゃないですか。ただ、部下によっては、行動を変える際に心理的な抵抗を覚える人もいます。それも、明確に「いやだ」じゃなくて、無意識のうちに変化を拒んでいる人っているんですよね。これを乗り越えてもらうために、WOOPは有効であると思いました。

なお、ちょっとマニアックな解説をすると、この手法は二つの研究結果の組み合わせです。一つはガブリエル・エッティンゲン先生が開発したメンタル・コントラスティングで、WOOPでいうと「願い」を思い浮かべてから「障害」を考えて、その両者を比較(コントラスト)させる手法です。もう一つはガブリエル先生の夫君のペーター・ゴルヴィツァー先生が開発したインプリメンテーション・インテンション:実行意図)。これは、WOOPでいうと最後のPlanのところで、If Thenフォーマットで考えるところに活かされています。なので、正確にはWish Obstacle If Thenと省略した方が正しい気もしますね。


画像はアマゾンさんからお借りしました

この記事を書いた人

MBAの三冠王木田知廣

木田知廣

MBAで学び、MBAを創り、MBAで教えることから「MBAの三冠王」を自称するビジネス教育のプロフェッショナル。自身の教育手法を広めるべく、講師養成を手がけ、ビジネスだけでなくアロマ、手芸など様々な分野で講師を輩出する。

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