採用面接で志望動機を聞くのはよくあるが、実際のところはまったくの無駄。なぜならば、志望動機や熱意は、いくらでもその場限りの作り話ができるから。そうではなく、相手の再現性のある力を見抜くのが、成果をあげるプロセスを聞くコンピテンシー・インタビュー。実際の会話例を紹介しながらそのやり方を解説します。

コンピテンシー・インタビューとは

中途で人を採用している会社ってあるじゃないですか。あれ、採用の面接がキモですよね。ところが、その採用面接をけっこういい加減にやっている会社ってあるんです。典型的には、志望動機を聞くこと。「では、当社に応募された理由をお聞かせ下さい」なんて。

答える方は、「御社の先端的なビジネスモデルに魅力を感じまして、ここでなら私の力が活かせると思い…」なんて応えます。でもね、これってまったく意味がないんです。だって、志望動機なんていくらでも作れちゃうわけじゃないですか。さっきの「ここでなら私の力が活かせる」なんてのも、いくらでも適当なことが言えます。企業側の面接官が、それ聞いてどう判断するんですかね?せいぜいが、事前の下調べをやっているかどうかぐらいしかチェックできません。と言うことで、志望動機を聞いても意味がないです、と言うことです。

で、大事なのはここから。じゃあ、面接では何を聞くの?答は決まっていて、「過去の行動」です。具体的には、こんな質問になります。「過去1年間ぐらいを考えて、『これは大きな成果が上がったな』というのを一つ教えていただけますか?ときどき私からの質問も交えながら、具体的にどんな行動をとられたのかお聞きしたいと思います」。これであれば、適当な作り話はできません。結果として、その人の本当の実力が見えてきます。

って聞くと、こんなふうに思う人がいます。「いやいや、過去の話だっていくらだって作れるよね?本当の実力なんて分からないんじゃない?」って。でも、これは違うんです。過去の大きな成果の「結果」を聞くわけじゃないんです。たとえば、営業マンで、大手顧客にアタックして1億円の売上をあげた、って言うことじゃないんです。知りたいのは。むしろ大事なのは、「どんな風に考えて、どんな行動をとったのか」のプロセス、つまり仮定なんです。

コンピテンシー・インタビューの具体例

たとえば、大手顧客にアタックして1億円の売上、っていうとき、「そもそも、そのお客様にアタックしようと考えたキッカケは何だったんですか?」と聞きます。あるいは、「そのお客様をアタックしようと決めて、まずはどこから手をつけましたか?」なんて質問もいいですね。これね、ハイパフォーマー、つまり仕事が出来る人はちゃんと応えられるんですよ。

たとえば、「新聞で○○と言う記事を見て、これならウチの商材にぴったりだと思った」とか、「過去にお付き合いがあったんだけど、最近ぜんぜん受注をもらっていないお客様をピックアップして」とかね。ところが、話を作っている人は、こういう説明はできません。応えも、「いや、たまたまですね」とか、「上司からの指示で」みたいなので終わっちゃうんです。それを聞いただけで、企業側の面接官は判断できます。「あ、この人は、自分で考えて成果をあげたわけではないんだな。

となると、その成果の再現性も低そうだ」。そう、別に、話を作っているか否かが重要じゃなくて、同じような成果をもう一度、もしくは何度でもあげることができるかをチェックしているわけです。先ほどの、「たまたまその会社にアタック」の人の成果は再現性はありません。「上司からの指示で」というのもそうですね。あるいは、上司からの指示ってことは、この人は自律的に行動する力が弱いのかな、っていう発想にもなります。

ハイパフォーマーが持つ再現性のある行動特性

ところが、話が戻ってハイパフォーマー。「新聞で○○と言う記事を見て…」というのを聞くと、面接官の方も、「この人は、問題意識を持ちながら新聞に目を通すという、『情報収集行動』をしているんだな」って分かります。あるいは、「過去にお付き合いがあったんだけど…」という話を聞くと、「この人は、ちゃんとデータにもとづいた判断する『分析行動』をしているんだな」なんて。ここで出てきた、情報収集行動や分析行動は、再現性が高いです。

たとえ会社が変わっても、同じような行動ができそうじゃないですか。結果として、同じような成果をあげる可能性が高いわけです。ということで、採用面接の際、成果をあげたプロセスを聞きながら、その人の再現性をチェックする手法を紹介しました。そして、人事の世界ではこれをコンピテンシー・インタビューと呼んでいます。コンピテンシーっていうのは、直訳すると能力です。それを行動面から観察可能な形で整理したのが人事の世界でいうコンピテンシーです。

というのは、「能力」って難しいんですよね。たとえば、情報収集力ね。上司と部下でも、部下は自分で「オレは情報収集力あるっす」と言っているのに、上司から見ると、「いや、君は情報収集力ないから」ってなりがちです。そうではなく、観察可能な「情報収集行動」をとっているか、とっていないかで判断した方が分かりやすいものです。別の言い方をすると、能力と成果の間をつなぐものと考えてもいいですね。仕事で成果をあげるためには、当然能力が必要じゃないですか。逆に言うと、能力というインプットがあって、成果というアウトプットが生まれるわけです。その間をつなぐのが、行動です。「情報収集力」を発揮して、「情報収集行動」をとった結果、成果が上がった、と言う関係ですね。

と言う風に考えると、このコンピテンシー・インタビュー、採用面接だけじゃなく、上司と部下の間でも使えます。とくに、異動になってまだなじみがない部下とかね。コンピテンシー・インタビューで、その人の力を見極めて、伸ばすべきところを明らかにすると育成がはかどります。なので、部下がいる方はぜひ職場で取り組んでみて下さい

この記事を書いた人

MBAの三冠王木田知廣

木田知廣

MBAで学び、MBAを創り、MBAで教えることから「MBAの三冠王」を自称するビジネス教育のプロフェッショナル。自身の教育手法を広めるべく、講師養成を手がけ、ビジネスだけでなくアロマ、手芸など様々な分野で講師を輩出する。

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