リーダーシップというと、企業研修の大きなテーマです。ただ、効果検証が難しいのが悩みどころ。そのヒントをくれるのが中原淳先生などによる「リーダーシップ教育のフロンティア【研究編】: 高校生・大学生・社会人を成長させる「全員発揮のリーダーシップ」」です。

大学生向けリーダーシップ開発授業の効果測定

まずは、大学生向けのリーダーシップ開発の効果検証の紹介から。「大学でリーダーシップ?」と違和感を感じるかもしれませんが、今の時代は多くの大学においてリーダーシップ開発の授業がされているとのこと。

本書においては、リーダーシップのフレームワークを下記と定め、授業前後での効果測定がされています。

  • 個の確立
  • 環境整備・同僚支援
  • 目標設定・共有

結論としては、授業の前後を比較すると、リーダーシップが開発されたことが有意に検証されています。

測定の手法は、セルフチェックシートによる調査です。細分化されたリーダーシップの行動を7段階で評価し、その平均値が授業の前後で上がっていることが証明されました。

これ、自己申告による評価なので、ちょっと微妙に思えた人もいるかもしれません。授業に出てそれなりの労力をかけたら、学生自身も「自分のリーダーシップは開発された」と思いたいじゃないですか。人間の性として。なので、数値が上がるのは当然といえば当然でしょう。

それでも、やらないよりはやった方がよっぽどいいですし、むしろ効果測定をすることによって、リーダーシップ行動が促進されるという側面もあると思いました。

ビジネスパーソン向け研修の効果測定

では、自己評価でなく、他者評価を採り入れようというのが、ビジネスパーソン向けのリーダーシップ研修の効果測定です。著者のお一人の中原淳先生が主導する「異業種5社の管理職らを受講生として実施された地域課題解決研修」において、やはり研修には効果があったとの報告がされています。

こちらの効果測定では、リーダーシップを下記の5項目に細分化しています。

  • 情報収集・業務遂行
  • ストレス耐性
  • 自己成長
  • 多様性対処
  • 部下育成

その上で、受講者自身の評価ではなく、受講者の上司によって5段階の評価がされ、その平均値が研修前後で有意な改善が認められたそうです。

何を測定するかを決める

冒頭に紹介したとおり、研修の効果測定というのは難しいものです。とくに、リーダーシップのようなソフトスキルでは、その難しさはより顕著でしょう。それを乗り越えるためのヒントが本書にはあります。

一方で、本書をビジネスの現場で使う際の難しさは、

何を測定するか

を事前に決めることにあります。

自己評価であれ他者評価であれ、研修前後で同じ項目を聞いて、その数値の違いから効果を測定するわけです。と言うことは、事前に、「今回の研修ではこの能力(もしくは行動)を開発するのだ」という明確な目的設定が必要になります。それは会社ごとに、あるいは厳密に言えば個人ごとに違うはず。それを、ひとつの評価シートに収めるためには、事前のに相当練り込むことが必要です。

もっとも、多くの研修の現場では、このような「何を測定するか」すら考えられていないのが実情です。ジョブローテーションで経験が浅い担当者だったりすると、

先生、この研修を盛り上げてくださいね

なんていわれてゲンナリすることもあります。

だとしたら、測定項目の設定の難しさはいったん置いておいて、とりあえず効果測定をしてみる、というのでもいいかもしれません。

立教大学経営学部BLP (Business Leadership Program)における効果測定項目

  • 個の確立
    • 新しさを求める
    • 自分自身が成長しようとする
    • 挑戦する
    • 立ち直る
    • 約束を守る
    • フィードバックを求める
    • 流されない
    • 自分を客観的に見る
  • 環境整備・同僚支援
    • お互いに認め合う
    • 意見を求める
    • やる気を引き出す
    • 良い雰囲気をつくる
    • 仲間を助ける
    • 利害を調整する
    • 役割指示を与える
    • フィードバックする
  • 目標設定・共有
    • 理想を描く
    • 理想を共有する
    • 目標を立てる
    • 計画を立てる
    • 目標計画を共有する
    • 進捗を管理する

異業種5社の管理職らを受講生として実施された地域課題解決研修の効果測定項目

  • 情報収集・業務遂行
    • 情報を多角的に分析して戦略や目標を交渉できる
    • SNS やテレビ会議などを用いて効率的に業務を行うことができる
  • ストレス耐性
    • ストレスが高い環境でもメンタル面を自ら維持することができる
    • 曖昧で不確実な状況に耐えて業務を段取りよく遂行できる
  • 自己成長
    • 自らの業務を時折振り返り業務能力の向上につなげることができる
    • 自分の業務のあり方を客観的に見つめ次のアクションを作ることができる
  • 多様性対処
    • 多様性のあるチームやパートナーを調整し率いることができる
    • 意見や価値観の異なるものを拒絶せずいったん受容することができる
  • 部下育成
    • 一人で仕事を抱えず部下や他の職場メンバーに仕事を任せることができる
    • 部下や他の職場メンバーに適切な振り返りを促すことができる


画像はアマゾンさんからお借りしました。

この記事を書いた人

MBAの三冠王木田知廣

木田知廣

MBAで学び、MBAを創り、MBAで教えることから「MBAの三冠王」を自称するビジネス教育のプロフェッショナル。自身の教育手法を広めるべく、講師養成を手がけ、ビジネスだけでなくアロマ、手芸など様々な分野で講師を輩出する。

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