OJT (オン・ザ・ジョブ・トレーニング)と聞くと、「OJT担当者を決めて、その人が指導係になる」というイメージを持ちがちですが、それ以上に重要なことがあります。実は最新の研究によると、OJTがうまくいっている職場では、様々な人が育成に関わっているとのことなのです。OJT担当者に求められる、「体制作り」について解説します。

以外と誤解されているOJT担当者の役割

まずはOJTとは。ご存じの通り、On the Jobトレーニング。つまり、仕事を通した能力開発です。新入社員は入社して研修を受けるじゃないですか。それはOff JT、つまり仕事外の能力開発と言われます。そちらが一段落して職場に配属。今度は仕事を割り振って、そのやり方、成果物に対してフィードバックをして能力アップに取り組んでもらう。これがOJTです。多くの企業で、その時に担当者を決めます。OJT担当と言われたり、シスター・ブラザーなんてちょっとしゃれた呼び方をする場合もあります。上司じゃなくて先輩社員が教育係となるわけです。

ところが、OJTがうまくいっている職場を調べたところ、配属された新人が様々な人と関わるのが重要なんだそうです。なぜかというと、質問できる相手が増えることで、業務における疑問点が解消しやすくなったり、多様な仕事のやり方を目にする機会が増えるからです。

そうすると、「この人からはこんなことが学べる、あの人からはあんなことが学べる」と学びが重層的になるんでしょうね。あるいは、この人よりもあの人の方がビジネスパーソンとして優れている、それはなぜかというと…なんて発想になるのかもしれません。差分、相対感から良いものと悪いものが分かるということでしょう。

OJT担当者の役割は仕組み作り

これが分かると、OJT担当者の役割が変わります。もちろん自分で教える、フィードバックするのもいいんですが、それ以上に様々な人に関わってもらうような体制作りが重要になります。自分の上司、先輩、後輩にお願いするわけです。新人の○○さんに、仕事を振ってください。その仕事に対してフィードバックしてくださいって。あるいは、隣の部署、本店と支店みたいによりは場を広げてもよいと思います。

新人の人脈を積極的に広げてあげると言いかえてもいいですね。もちろん、事前に教えてあげましょう。ウチの部署の○○先輩はこんな仕事を担当している、隣の部署の□□さんはあんな知識を持っているから、チャンスがあれば聞いてみるとよい…などなど。その上で、「じゃあ、今日は○○先輩がお願いしたい仕事があるって言ってたんで、後で打合せの時間をとって下さい」という風に、仕事の割り振りもしてあげるのでしょう。

そして、もちろんやりっぱなしではなく、一段落したら聞いてあげましょう。「こないだ、○○先輩から仕事の依頼受けたよね?あれ、うまくいった?○○先輩から学べたものって何だった?」って。先ほどの話、おぼえていますでしょうか?「この人からはこんなことが、あの人からはあんなことが学べる」というの、もちろん自然発生でもいいんですが、それを明確に新人に意識してもらうためには、「何が学べた?」って聞くのは重要です。というのは、仕事の経験から学びを得る人と、得られない人っていますからね。これは新人じゃなくてある程度経験を積んだ人でもいます。単に仕事をするだけで、振り返る習慣がない。そうすると、仕事がうまくいったにしても行かなかったにしても、経験から学ぶことができない。ちょっともったいないです。

なので、OJT担当者が先ほどのような問いかけをして、「経験から学習する力」を高めてあげるとよいと思います。業務を実行して成果を上げる力から、ひとつ抽象度を上げて、成果を上げる力を高める力を身に付けてもらうのがOJTの目的のひとつであると言ってもいいでしょう

OJT担当者の5つの関わり

ただ、そうは言っても、OJT担当者自身が教える場合もあるでしょう。そんなときに必要な要素も紹介します。これも研究結果があって、OJT担当者の新入社員へのはたらきかけを5パターンに分類したんですって。協力、委任、内省、姿勢、会話。

協力:他部門と協力して仕事をする機会を与える、など

委任:仕事を任せる、など

内省:成功、失敗の原因を考えさせる、など

姿勢:行き当たりばったりではない指導など、指導員の取り組み姿勢

会話:話をよく聞く、など

そうすると中でも、協力と会話が新入社員の能力アップに効くそうです。協力というのは、まさに最初にお話しした「よってたかって」育てる体制作りです。会話は、まあ、指導のベースになるものですから、必要なのは分かります。

一方で、先ほどの5つの中では、内省はそれほど重要ではないんですかね。個人的にはちょっと違和感がありますけど。さっきも言いましたが、内省によって「経験から学べる力」を高めるのが重要だと個人的には思うので。そうすると、これも想像ですけど、短期的な能力アップにはあまり関係ないけど、5年10年という長期間にわたって聞いてくるものかもしれないです。たとえば大卒直後に入社して、10年経って中堅になったとき、伸びる人と伸びない人の違いは何か。それが実は、新入社員のころに振り返りの習慣を付けたか否か、なんて結果が出ると面白いと思います。ここらへん、アカデミックの方は研究してくれないですかね。

ちなみに今の時代、採用活動はとてもたいへんだと思います。そうすると、採用できた人を育成して頑張って仕事をしてもらうというのは、極めて重要です。なので、OJTの重要性はこれからますます増していきます。今日の動画も参考に、ますます知識を身に付けていただけると、よいのではないでしょうか。

この記事を書いた人

MBAの三冠王木田知廣

木田知廣

MBAで学び、MBAを創り、MBAで教えることから「MBAの三冠王」を自称するビジネス教育のプロフェッショナル。自身の教育手法を広めるべく、講師養成を手がけ、ビジネスだけでなくアロマ、手芸など様々な分野で講師を輩出する。

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