マサチューセッツ大学MBAプログラムの組織行動論、第5回はモチベーション(動機づけ)です。ぶっちゃけの話としては、このテーマは講師としてはいちばん苦労するところ。その理由とともに、実際の職場で使える動機付けの方法を考察します。
マサチューセッツ大学MBAプログラムの動機付けのフレームワーク
マサチューセッツ大学MBAプログラムでは、動機付けを大きくは、
- 人の心の中を分析して効果的に刺激を与える
- ヒトを取り巻く職務を分析して効果的に仕事を与える
と言う二つの方向性で考えています。
具体的なトピック名で言うと、人の心の中の話は、
- 内容理論(欲求とは)
- 期待理論
- 公平理論
そして、職務デザインに移って、
- 職務特性論
- 社会的情報処理
となります。
例えば部下の動機付けを例に考えてみましょう。期待理論では、「本人の努力が仕事上の成果に結びつくこと。そして、成果が報酬に結びつくこと」という一連の流れを明確にすることがそのキモです。ただ、この「明確に」というのは、部下の心の中の認知であるのは気をつけるべきところでしょう。客観的にどれだけ明かであっても意味がなくて、部下自身が「なるほど、確かにそうだ」と思えて始めて動機付けという観点で意味を持つワケです。
仕事の与え方によっても動機付けできる
一方で、職務説く正論では、部下の心の中に踏み込んでどうこうと言うよりも、仕事の与え方1つでやる気になったりならなかったりするのでは?というアプローチになります。「仕事」を下記の5つの要素に分解し(核となる特徴)、それらをコントロールすることで魅力的に見せることになります。
- スキルの多様性 (Skill Variety)
- タスクの全体性 (Task Identity)
- 作業の重要性 (Task Significance)
- 自律性 (Autonomy)
- フィードバック (Feedback)
これらの理論は理屈としては正しいし、追跡調査によってある程度の正しさは検証されているとのことなのですが、「人間の心って、こんなに機械的なのかなぁ」という疑問をぬぐうことができません。実際に、マサチューセッツ大学MBAプログラムの教材でも、
この理論は、人々は情報を合理的に処理するものである、と仮定する(しかし例外もある)
との指摘が、ハーバート・サイモンの限定合理性の紹介とともになされています。
日本と欧米で異なる動機づけ感
あるいは、これは、欧米と日本との違いに由来するのかもしれません。というのは、欧米人と日本人ではアイデンティティの持ち方が違うんですよね。「文化的自己感」は2種類あって、
相互独立的自己感は、「人は他者やまわりの物事とは区別されたものである」という考えにもとづいた人間観(中略)。一方、相互強調的自己感は、「人は、他者やまわりの物事との関係性があって初めて存在する」という考えに基づいた人間観
とのことです(山岸俊夫監修、「社会心理学」、新星出版社、2011年)。
こうして並べてみると、欧米人の持つ相互独立的自己感の方が前述の期待理論にマッチしているような気がしますね。逆に言うと、日本人にとっては期待理論だけでは十分ではなく、「他者との比較」や「他者との関わり」による動機づけも必要になるのかもしれません。
マサチューセッツ大学MBAでのアサインメントの例
冒頭で書いた、「講師としてはいちばん苦労する」のがこの点で、欧米発の理論は理論として押さえつつ、日本の職場においてどのようにこれを実効性のある(=行動に置き換わる)学びとして提供するかが問われるところだと思うのです。1つの工夫として、アサインメント(毎週提出する英文1ページのレポート)をより身近な題材にしています。
あなたにとって「最高のモチベーター」は誰ですか?15-30分程度その人をインタビューし、その内容を分析してください。人を動機づける「キモ」は何でしょう?その分析結果をどのように日常業務にいかしますか?
もし可能であれば、ウィーク5で紹介された理論と関連づけて説明してください。
ちなみに、できてきたアサインメントを見ると、人によって様々で、採点という観点からはいちばん楽しい回になっています。
この記事を書いた人
木田知廣
MBAで学び、MBAを創り、MBAで教えることから「MBAの三冠王」を自称するビジネス教育のプロフェッショナル。自身の教育手法を広めるべく、講師養成を手がけ、ビジネスだけでなくアロマ、手芸など様々な分野で講師を輩出する。
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