部下育成に関する本で、異なるテイストのものをたまたま連続して読みました。 真実はこの2冊の間にあるのでしょう。

部下育成の「真逆」のアプローチ 

こんにちは。MBAの三冠王ことシンメトリー・ジャパンの木田です。私は人材育成の仕事に携わっているので、そっち系の本はよく読みます。その中でも最近読んだ2冊は、一見すると真逆のことを提唱していて面白かったです。

一つは、中原淳先生の「フィードバック入門 耳の痛いことを伝えて部下と職場を立て直す技術」。その名の通り、部下に厳しく指導して、その行動をあらためさせるノウハウが盛り込まれています。もう一つは松尾睦先生の「部下の強みを引き出す 経験学習リーダーシップ」。こちらは、部下の強みにフォーカスすることが提唱されていて、そこには「耳の痛いことを伝える」と言うニュアンスはありません。いわばこの二冊は、人材育成におけるN極とS極、真逆のアプローチを紹介しているのです。

部下の行動を変えるには強みにフォーカス

個人的には、松尾先生の「強みを引き出す」方に共感を感じました。と言うのは、部下の指導というのは良かれ悪しかれ部下の行動を変えることが求められるわけじゃないですか。その際に、部下自身の中に「自己効力感」が必要だと思うんですよね。自己効力感というのは、「自分はできる」という感覚。これがないと、いくら上司が厳しいことを言っても、「私にはできないです」と部下が行動を変えることはないはず。この観点で、「耳の痛いことを伝えて」のアプローチは、部下の自己効力感を高めることが難しいと感じます。

もちろん、この「耳の痛いことを伝えて」のアプローチが機能する局面もあります。それはたとえば、元から自己効力感が高い人たちがあつまる場。中原先生といえば、「地域課題解決プロジェクト」におけるリーダーシップ開発を主催されています。このように、大手企業の優秀層が集まる場では、「耳の痛いことを伝えて」というアプローチは機能するでしょう。

しかし、一般的な企業においては、部下は必ずしも自己効力感が高いわけではないでしょう。なので、「強みを引き出す」アプローチの方が現実的だと思いました。

とはいえ、強みにフォーカスするアプローチは限定的?

一方で、「強みを引き出す」アプローチにも、特有の難しさはあります。このアプローチのベースになっているのは、部下の強みを伸ばす指導をしているマネージャーはそうでないマネージャーよりも約2倍の成功を収めているという研究成果です。それが、Cameron, Quinn他編、Investing in Strength, Positive organizational scholarship: foundation of a new disciplineにまとめられています。この編者にピンと来た人は、かなり人材育成分野のマニア。この二人、「組織文化を変える」の著者ですから、先ほどの「2倍の成功を収めている」というのも、「ある条件下(あるい組織文化の下で)」 検証された結果ではないかと想像します。逆に言えば、強みにフォーカスするのは常に正しいわけではないであろうと言う気がするのです。

もう一つ別の課題、というか疑問点として、「ビジネスパーソンである限り最低限必要なスキル」と言うのもあるのではないかというもの。たとえば、ロジカルシンキング。

  • ファクト<事実>を押さえて
  • 妥当な推論により意見をまとめ
  • それを分かりやすく人に伝える

ことができない部下は、強みを伸ばす以前の話でしょう…。

と、ここまで書いて思ったのですが、これってよく考えたらビジネス以前の学校教育で身に付けるべきことかもしれませんね。そうすると、松尾先生の強みを引き出すアプローチは、「学校教育の段階でこれができている」という前提に立っているのかもしれません。

ひょっとしたら、ポイントは順序?

ただ、実際のところは上記のロジカルシンキングができていないビジネスパーソンは少なくないでしょう。したがって、

  • ビジネスパーソンであれば誰もが持っていなければならない基礎的なスキル・マインド
  • その人の強みや専門性の源泉となる付加的なスキル・マインド

の二つに分けて、前者は改善的なアプローチで、後者は強みを伸ばすアプローチで接するのが妥当なのかもしれません。

そしてその際の順番としては、

  • まずは強みを伸ばすアプローチで付加的なスキルを伸ばしつつ、部下の自己効力感を高め信頼関係を構築する
  • その上で(必要に応じて)、「耳の痛いことを伝えて」アプローチで改善を促す

というのが効果的に思えます。冒頭では部下育成の両極と書いたこの二つのアプローチ、実は補完的なのかもしれません。coach photo

この記事を書いた人

MBAの三冠王木田知廣

木田知廣

MBAで学び、MBAを創り、MBAで教えることから「MBAの三冠王」を自称するビジネス教育のプロフェッショナル。自身の教育手法を広めるべく、講師養成を手がけ、ビジネスだけでなくアロマ、手芸など様々な分野で講師を輩出する。

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