部下を持つ方ならば、その指導にはヒビ悩まれているでしょう。その際重要なのは、相手の行動を変えることです。成果につながる行動を身に付けてもらうことこそが部下指導の際に上司が目指すべきところ。そのためには、部下の行動の背後にある心のはたらきを理解する必要があります。目に見えない「海面下」にたくさんの要素がある氷山に例えながら、部下の行動を変えるための方法を解説します。
目次
部下の頭の中を図解する氷山モデル
部下の育成がうまく行かないと、イライラしたり悩んだりしますよね。「何回も指導しているのに、なんで同じミスするの?」とか、「こないだ教えたこと、なんでできないの?」とか。そんなときに、部下の行動の背後にある心の動きを探るのが効果的です。
いやね、もちろん目の前の部下に文句を言いたくなるじゃないですか。「なんでできないの?」って。でも、それを言っても無駄。だってできないものはできないんですから。しかも、今の時代、ヘタすればそれだけでパワハラですからね。
だとしたら、部下がある行動をとれるようになるためには、何が必要なんだろう?という観点で部下の心の中を想像してみましょう。その際、よくある氷山のたとえが分かりやすいですね。水面より上に出ている部分は、行動です。目に見えるわけですから。ただ、そこを動かすためには、水面下に隠れているものを変えなければいけないわけです。
そして、水面下も、つまり部下の心の中も、階層構造で考えてみましょう。つまり、心の奥底にあるものと、表面上にあるものです。氷山で言うと、水面すれすれにあって分かりやすいものと、氷山の一番下の方にあって、ちょっとよく分からない、あるいはなかなか動かすことができないものというイメージです。
「知らないことはできない」を乗り越えるために知識を付ける
部下の心の中の表面にあるもの、まずは知識です。つまり、知っていること。逆に言うと、知らなきゃできない、つまり行動が変わらないのは当然です。
たとえば、職場のコミュニケーションで考えてみましょう。「報連相の際には、結論から話すようにして下さい」というのを部下に指導します。最初は、この言葉をそのまま言うわけですね。何でかって言うと、日常のコミュニケーションで「結論を先に話す」(結論ファースト)っていうのは慣れていない人が多いからです。
部下に言うわけです。職場では、報告・連絡・相談して下さいね。そしてその際は、結論を先に話すようにして下さい。部下の方は、分かりました、と答えます。ところが、できない人ってけっこういます。言葉では、「分かりました」って言っても、次回報連相のときにダラダラと話す人が。いや、結論は何?だってこないだ言ったよね?報連相では結論が先って?って言いたくなりますが、単に知識として知っていると、「できる」とは違うんですね。
だとしたら、知識の次の階層を見てみましょう。それが、「スキル」です。つまり、知識として分かったことが、できるかどうかという観点です。報連相の際、「今の話し方って結論ファーストになってなかったの、分かります?」。「はい」。「じゃあ、もう一回やり直してみて」。のような会話を何回か繰り返すと、できるようになります。すなわち、知識がスキル化されるわけです。
「分かるけどできない」を乗り越えるスキル化
ところが。これでもまだできない人っているんですよ。「よし、結論ファーストの話し方になったな」って思っても、いつの間にかダラダラした話し方に戻っちゃう人。そうすると、次の階層の出番です。一番上の「知識」、その下の「スキル」に続いて、今度は「マインド」です。要するに考え方です。たとえば、その部下の人が、「コミュニケーションというのは楽しむものだ」と思っていたとしましょう。日常のおしゃべりなんかはそれでもいいですよね。でも、職場でのコミュニケーションも「楽しむものだ」と思ってもらうと困るわけです。
知識とかスキルとは別のレベルで、それこそマインドのレベルで、「職場でのコミュニケーションは効率が大事だ」と考え直してもらう必要があります。だから、これまた部下の指導です。「○○さんね、何で結論ファーストが大事かって分かります?」、「はぁ、それは課長がそうおっしゃるからですよね」。「いや、そうじゃなくって、職場では効率が大事なんですよ。限られた時間の中で仕事をやるわけだから」。「はぁ」、「そうすると、コミュニケーションも効率よくやる必要がありますよね」、「まぁ、そうですかね」。「結論ファーストの話し方の方が、効率よく相手に言いたいことが伝わるんですよね」「そうなんですか?」、「うん。聞く側になると分かると思うんだけど、『何を言いたいのか』を考えながら話を聞いているとツライじゃないですか。」、「まぁ、そうですね」、「結論ファーストの方が、その後の話が頭に入ってきやすいんです」
「できるけどやりたくない」を乗り越えるマインド変化
とまぁ、面倒ですけどね。でも、こういう会話によって、「なぜそれが必要なのか?」を納得してもらう、つまりマインド、考え方を変えてもらうんです。正直、面倒くさいですけどね。って言うのは、このマインドって上から三階層目だったじゃないですか。知識、スキルときてマインドなので。階層で考えた場合、下に行くほど変えるのが難しくなります。つまり、知識をつけるのは比較的簡単。それこそ、暗記すればいいわけです。ところが、その下のスキルは、身に付けるまでちょっと時間がかかります。
そしてマインドは、もっと変えるのに手間がかかるわけですね。なので、さっきみたいな会話を手を変え品を変え行う必要があるわけです。ただ、そこまでやる意義はあって、行動に対するインパクトは大きいです。「なるほど、職場では効率が大事なんですね」ってのを納得してもらえれば、他にも波及効果がありそうじゃないですか。部下がね、「では、社内のコミュニケーションだけでなく、取引業者さんにも分かりやすく、効率的に伝えますね」なんて。と言うことでここ[tok1] まで、行動の背後にあるものを紹介してきました。
パーソナリティは受け入れる
そして、最後のもう1階層です。それが、「パーソナリティ」です。これは実は、変えよう、という話じゃないです。だって、心の奥底にあって変わるものではないですからね。ちょっとマニアックな話としては、実は大人になってからも変わるらしいんですけれど。心理学の世界では、性格を表すのにビッグファイブって言って、五つの要素で説明できるんです。開放性、まじめさ、外向性、協調性、精神安定性。
たとえばまじめさなんて、大人になったらあまり変わらないと思うじゃないですか。ところが、生涯伸び続けるんですって。もちろん、20代、30代で伸びが大きいですけど。ちょっとね、人間の可能性を感じて面白い研究結果ですよね。ただ、元に戻ると、パーソナリティは変えられないって考えた方が無難だと思います。だって、いやでしょ?上司から、「お前、もっとまじめになれ。真面目さは大人になってからでも伸びるんだから」って言われ続けたら。
なので、パーソナリティは受け入れる。その部下は、こういうパーソナリティを持っているんだ、というものに基づいて仕事の割り振りをやって挙げるといいですね。外向的な人にはこの仕事を、逆に外向性が低い人には別の仕事を、みたいな感じで。
と言うことでまとめてみると、部下の育成において、相手の行動を変えるためには、心の中を推し量りましょう。その際には階層構造で、上から「知識」、『スキル」、「マインド」、「パーソナリティ」となります。下に行けばいくほど変えにくい、けれど、変わった時のインパクトは大きい、となります。
前ページ 些細だけど違いを生み出す行動」は?コンピテンシーでこれまでなかった部下育成に取り組むを読む |
1DayMBAのページに戻る | 次ページ 「従業員満足度」がもはや通用しないわけ。新指標、「エンゲージメント」で人が辞めない職場づくりを読む |
この記事を書いた人
木田知廣
MBAで学び、MBAを創り、MBAで教えることから「MBAの三冠王」を自称するビジネス教育のプロフェッショナル。自身の教育手法を広めるべく、講師養成を手がけ、ビジネスだけでなくアロマ、手芸など様々な分野で講師を輩出する。
ブログには書けない「ぶっちゃけの話」はメールマガジンで配信中。