昔の日本企業で重要視されていた「満足度」はもはや意味をなさないと言われています。なぜならば、社員の価値観が多様化した結果、「楽な仕事で満足している」ような組織の成果に貢献しない「ぶら下がり従業員」を生んでしまう危険性があるからです。それに代わるのがエンゲージメント。「貢献意識」と訳されますが、現場発でもエンゲージメントを高める方法を紹介します。ポイントは相手の心理に訴えかける理念アプローチと、相手の論理に訴えかける戦略アプローチです。

世界最低レベルの日本人のエンゲージメント

ところが、日本人のエンゲージメントって低いんですって。たとえば、「2年以内に会社を辞めたい」って思っている20代社員は全体の3割ぐらい。諸外国に比べて高くなっています。しかも、年々上がっていますからね。2012年、今から約10年前は、この数字が20%ちょっとだったんです。それが今では30%。

じゃあ、どうやってこのエンゲージメントをあげるのか。実はこれも調査があって、エンゲージメントをあげるためには、社員が「顧客に提供する体験的価値への自信」を持てれば良いんですって。繰り返しますね。「顧客に提供する体験的価値への自信」です。要するに、ウチの会社は何の会社なの?お客さんに対して、あるいは社会に対してどんな貢献をしているの?と言うのを実感したいのだ、となります。

面白いですね。組織も誰かに貢献している、だからこそ私もその組織に貢献したいんだ、というサイクルがあるわけです。では、こういう感覚、さっきもいったけれども、「顧客に提供する体験的価値への自信」を社員に持ってもらうために会社は何ができるのか?ひとつは、会社の存在意義の明確化です。我々は、誰?他とどう違う?誰がお客様?というのをクリアにして従業員に知らしめましょうよ、と。そして、もうカンの鋭い人は気づいていますけど、リッツ・カールトンホテルのあれですね。あれ。「ラインナップ」と呼ばれる手法で、理念を浸透していくというモノでした。

戦略理解がエンゲージメントUPにつながる

さあ、一方で、今のは感情的な、情緒的なエンゲージメントのあげ方です。実はもうひとつのアプローチがあって、それが理屈の面。「自社の戦略と目標に対する信頼感」というものです。繰り返しますね。「自社の戦略と目標に対する信頼感」です。ウチの会社の戦略は何?その戦略って、間違いないよね?というのが頭で分かった時、エンゲージメントが高まります。

ただ、「戦略」って難しいですよね。たとえばですよ。課長クラスの人に聞いてみましょう。「御社の戦略はどのようなモノですか?」って。多くの人は戸惑いますよね。え?え~っと…って。だって、もともとは課長に求められていませんでしたから。自社の戦略を理解する、それを分かりやすく部下に伝える、なんて。でも、今や、戦略は課長にとっても必須次項です。で、これなんかはやっぱり、研修でしっかりと戦略立案、そして戦術構築見たいのを学んでもらった方がよいと私は思っています。

「敵」が戦略を明確化する

ただね、実は「伝える」という観点で考えると、もっとシンプルです。実は、「敵」をつくると戦略が説明しやすくなります。

これがうまいビジネスパーソンと言えば、スティーブ・ジョブズ氏ね。たとえば、iPadの説明をするイベントで、こんなふうに言っています。「タッチングデバイス」、つまり画面上の操作を何でやるの?マウス?あんなモノは古くさい。スタイラスペン?例の、先端がプラスチックになっているペン、あれは邪魔だし、たいていどっかにいっちゃうよね。でもね。私たちにはもっと素晴らしい、生まれ持ったポインティングデバイスがあるじゃないか、それが「指」だ。

もうね、これだけで戦略っぽく聞こえるじゃないですか。つまり「敵」をつくって、それを倒すというのが、戦略を説明する一番手っ取り早い方法です。ご自身の仕事で「敵」は何ですかね?営業の部署だったら、当然競合会社なんか敵になります。あるいは、社内でデジタル化、DXを進めている部署だったら、『抵抗勢力」を敵にしてもいいですね。もしくは、社会の不公正、不効率なんかも敵になります。

ぜひここは、ご自身で工夫して考えて下さい。とくに、管理職の方ね。このような話し方ができるか否かで、従業員のエンゲージメントが変わります。それが高まって人が辞めなくなれば、自身がより業務に集中できるといういいサイクルに入ります。それが、現場初のエンゲージメントの高め方です。

 

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この記事を書いた人

MBAの三冠王木田知廣

木田知廣

MBAで学び、MBAを創り、MBAで教えることから「MBAの三冠王」を自称するビジネス教育のプロフェッショナル。自身の教育手法を広めるべく、講師養成を手がけ、ビジネスだけでなくアロマ、手芸など様々な分野で講師を輩出する。

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