体組成計や万歩計のメーカー、タニタをご存じの方も多いでしょう。健康経営から派生して、食事にこだわった「タニタ食堂」もオープンして、言ったことがある人もいるかもしれません。そのタニタが2017年から始めている新しい取り組みが、正社員を業務委託契約に移行するというやり方…と聞くと、「それってテイのいい首切りでは?」と思う人もいるかもしれませんが、そんなことはありません。むしろ、(元)従業員の真の意味での「働き方改革」を狙ったものです。このタニタの取り組みをキッカケに、「正社員とは何だ?」というテーマに切り込みます。

正社員を業務委託にするタニタ

タニタという会社、ご存じだと思います。もともとは体組成計や万歩計なんかのメーカーですけど、そこから派生したタニタ食堂、なんかで有名な会社です。このタニタさん、面白い人事制度を採り入れていて、それが正社員を業務委託契約に移行するというものです。これまでは正社員ですから、会社と雇用契約を結んで働いていた。それをある時から、雇用契約を辞めよう、と。代わりに業務委託契約。つまり、外部の業者さんになるわけですね。もちろんそこでは、明確に委託する業務を決める。そのうえで、追加の業務が発生したら当然成果報酬も払う。契約は3年契約で、1年目が終わったところで委託した業務の見直しも行うそうです。

と言うのを聞くと、「あ、分かった。人件費削減のため。何かあったら業務委託契約を終了して首切りになるよね」って早とちりする人もいるかもしれないんですが、そうではないんですって。目的はあくまでも働き方改革。それも、単純に労働時間削減ではなく、働きたい人にはモーレツに働いてもらい、成果と成長を達成してもらおうという観点で、極めてポジティブ。実際に、会社がそれまで払っていた社会保険分も業務委託費として元社員の人に支払っているそうです。

しかも、会社の方にもリスクがあるわけです。元社員の方が優秀だったら、業務委託料を値上げしてください、という交渉になるわけじゃないですか。それも、正社員の給与体系にとらわれずに上げることができる。というか、上げないと、その方から、「それでは契約できません」となりかねません。

いや、面白いな、と思いました。ちなみにこれを主導した谷田社長は本も出版されていて、読んでみると極めてまっとうです。しかも、この取り組み、2017年から始められたということで、先端的。素晴らしいと思いました。

正社員と外部人材の境目が曖昧に

そして、今。時代はポストコロナです。コロナ禍の間はリモートワークが流行って、会社の中にはポストコロナでもリモートワークを続けているところもあると思います。

そうすると、考えちゃいます。「正社員の意味って何だろう?」って。むかしは、一緒のオフィスに働いていたころは、情報の共有度合いが違ったということで説明がつきました。いちいち業務を説明しなくても、同じ空間で働いていれば、電話のやりとりなんかを聞きながら、「彼はこういう商談に取り組んでいるんだな」、「彼女のプロジェクトは山場にさしかかっているらしい」など、分かるんです。

でも、リモートワークではそうはいかない。たとえ正社員であっても、いちいちゼロから説明を始めなければいけないんです。

それって、外部の業務委託の人と変わらないですよね。つまり、正社員と外部人材の境目が極めて曖昧になっているんです。

って言うと、「情報が社外に出て行くのは、問題じゃないですか?」って反論があり得るんですけど、それも現実的には問題にならないです。だって、外部の業務委託の人と機密保持契約を結べば同じです。あるいは、もうちょっとリアルに言うと、正社員が辞めた後、競合企業にそのまま行くこともあり得ます。

一応ね、競合禁止規定というのを結ぶことはできますが、実質上はほとんど意味をなさないんですって。職業選択の自由がありますからね。

実際最近、双日で、転職してきた社員が前職の業務機密を持ち込んだのではという事件があって、家宅捜索とか受ける事態になっています。こうなるとむしろ、外部の業務委託の人の方が安心である可能性すらあります。

後はなんですかね。組織に対するエンゲージメント?これも、微妙。正社員だからと言ってエンゲージメントを感じているわけではないですからね。どころか、逆エンゲージメントを感じている人も4人に一人の割合でいるって言う調査結果があったんじゃないかな。

一方、社外の人だってその会社に対してエンゲージメントを感じます。私だってそうです。研修の仕事で長くお付き合いする会社さんには、単なる仕事を超えて、貢献したいな、って思います。日常生活でもその会社の製品を買うし、業務範囲を超えてアドバイスとかもしますしね。

と言うことで、今後ますます、外部人材の登用は進んでいくでしょう。

日本の雇用の二重構造が変わる

で、ここから本題。正社員の方は、その地位にあぐらをかいていられない時代です。正社員の方も、その貢献度合いと給料が、外部の人材と比べられる時代です。特に最近のようにテクノロジーの進化が早いと、それについていけない人は、たとえ正社員といえども評価が下がります。だからこそ政府も、リスキリングを推しているわけです。テクノロジーの進化に伴って働き方が変わったら、それに対応してくださいよ、と。

もちろん、日本の場合は解雇規制が強いので、だからすぐにクビ、って言うのはありません。そのせいでリスキリングもなかなか進まないんですけどね。でも、徐々に、そして長期的には、キャリアアップも見込めないし給与が上がるのも期待できなくなるでしょう。

私なんかから見ると、これって労働市場の適正化だなって見えちゃいますけどね。何でかって言うと、日本の雇用は二重構造だったわけです。地位を保証された正社員と、雇用が不安定な非正規社員に。そしていま、多くの企業で賃上げの動きがありますけれど、それは正社員に対して。非正規のスタッフに対して賃上げをしようという動きはまれでしょう。だからこそ、日本全体で見ると賃金が上がらずに、それが景気の足を引っ張り続けてきたわけですからね。

でも、それが今、動き始めているんじゃないか。そんな予感を感じています。何か一つキッカケがあれば、それこそ、外圧みたいなのがあれば、日本の雇用慣行も大きく動くんじゃないかな。

この記事を書いた人

MBAの三冠王木田知廣

木田知廣

MBAで学び、MBAを創り、MBAで教えることから「MBAの三冠王」を自称するビジネス教育のプロフェッショナル。自身の教育手法を広めるべく、講師養成を手がけ、ビジネスだけでなくアロマ、手芸など様々な分野で講師を輩出する。

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