「何度注意をしても同じミスをする部下」に悩まれている上司も多いでしょう。たび重なると、「コイツ、やる気がないな」と怒りを感じることもありますが…ちょっと待って。ひょっとしたらその部下は、認知機能が弱くて本当に人の話を聞けていないのかもしれません。しかも、プレッシャーがかかると、認知機能がより低くなって、ミスの連発という悪循環になりかねません。ここでは、このような部下の育成の可能性につながる「コグトレ」という手法を紹介します。

何度指導しても同じミスをする部下

職場にこういう部下っていませんか?何度指導をしても同じミスをする。あるいは、「マニュアルを見ながら仕事をしてね」って指示しても、気づけば自分勝手な仕事の進め方をして、効率が悪い。

そういうのを見ると、「やる気があるのか?」という気分になるかもしれませんが、それはやる気じゃなくて能力の問題かもしれません。能力の中でも、最も基本となる、モノゴトを認知する、つまり理解する能力が低い可能性があると私は思っています。

と言うと、「いや、ちょっと待って。その人、普通に生活しているよ。同僚との雑談でも話がはずんでいるし」っていう反論が来るんですが、本当のところは雑談だって、相手の言っていることを十分に聞けずに、なんとなく空気にあわせているだけかもしれませんからね。

たとえば、こんなテストをやってみましょう。これから私が文章を読み上げるので、一文、つまりまるで区切られた1つの文の最初の言葉を答えてください。ただし、もうひとつルールがあって、文章の中で動物が出てきたら、手をポンッと叩いていただきます。では、行きますね。

昨日散歩をしていたら、可愛い犬に会いました。川沿いまで歩いて行くと、猫がひなたぼっこしていました。

さあ、どうぞ、2つの文がありましたけど、それぞれの最初の言葉は、「昨日」と「川沿い」ですよね。ところが、認知機能が弱い人は、犬、猫って答えちゃうんですって。

動物が出てきたら手を叩くというルールがあったじゃないですか。こっちに集中してしまうと、そもそもの問題意識を忘れてしまうのです。つまり、話し手が意図しているようには聞けていないわけです。

プレッシャーで認知機能が下がる?

こういう人が職場にいると、何が起こるか。その人がミスをするじゃないですか。上司が指導します。お客様への出荷日、日付をエクセルに入力するという仕事ですが、上司が言うわけです。「そうやって、目だけで確認すると、1行ズレちゃうよね。定規を置いておいて、入力するたびに1行ずらして。だから定規も透明なものじゃない方がいいよね。たとえば…」

聞いている方は、「そうか、定規は透明じゃない方がいいのか」って理解します。肝心の入力ミスを防ぐ方法は聞いてない。音として聞こえてはいるんだけれど、脳の中に入っていかないわけです。結果として、同じようなミスをやってしまう。

いかがでしょう?実際に職場でも起こっている気がしませんか?

ちなみに専門的には、「境界知能」って言うらしいですね。IQってあるじゃないですか。あのスコアが70未満だと知的障害になるらしいんですが、そこまで行かずともギリギリ。知的障害との境目にいる、境界にいるという意味だそうです。

しかもですよ。この認知機能って、気分によって大きく変わるんじゃないかって私は思っています。というのは、以前このライブ配信で取り上げた、しどろもどろのお天気キャスターの話が合ったじゃないですか。朝の情報番組で、ちょっと威圧感のある司会の人に質問されると、トンチンカンな答えをしてしまう人。ところが、まったく同じ人が、女性アナウンサーとの会話ではごくまっとうな会話をするんです。

つまり、プレッシャーをかけると認知機能が弱まって、相手の話を聞けない、あるいは自分の言いたいことを言葉にできないってなる可能性があります。もちろん、これは私の仮説なので、どこまで検証されているかは分かりませんけど。

でも、この仮説が正しかったとしましょう。さっきの職場の話に戻ります。もう、悪循環です。最初は丁寧に「目だけじゃなくて、定規を使って」って指導していた上司も、ミスが重なるとイライラして言葉がきつくなります。

「なんでまたミスしたの?こないだ言ったよね?ちゃんと定規使った?」

部下は答えます。しどろもどろでね。「あ、いえ、その、透明じゃない定規がなかったので、いま、そういうのを探しているところです。通販サイトでもなかなか見つからなくって…」

上司にしてみたら、「私のこと馬鹿にしてます?」ぐらいの受け答えですよね。ますますイライラすると、部下はますます萎縮してって言う悪循環です。

コグトレで認知機能の向上

じゃあ、どうしたらいいのか?ヒントになるのが、先ほど読み上げた文の最初の言葉を答えるってあったじゃないですか。あれ、実は認知機能を向上させるためのトレーニングの一環なんです。「コグトレ」と言います。想像ですけど、コグニションという英単語が「認知」って意味なので、コグニション・トレーニング、コグトレじゃないかと思っています。もともとは宮口先生という方が発案されたものです。「ケーキが切れない非行少年たち」というご著書でご存じの方もいるかもしれません。

このコグトレ、色んなパターンがあって、中には公文の問題みたいなのもありました。こう、この図形とこの図形は同じ形だけど向きが違う、のを組み合わせるみたいなのね。コグトレを続けることで認知機能のアップが見込まれるそうです。

先ほど「ケーキを切れない非行少年」ってキーワードがありましたけど、少年院での学習にコグトレが採り入れられているみたいですね。少年院ってね、矯正施設ですからね。問題行動を起こさないためには、コグトレで認知を高める、ってことなんでしょう。

あるいは、小学校でもこのコグトレを採り入れるところもあるそうです。特に低学年。学習についていけない子は、教科の前にコグトレで認知機能を高めましょう、と言うことなんでしょうね。実際にそれで成果も上がっているようです。

もちろん、当事者の声としては、そんな単純な話じゃないよってのはあるみたいですけどね。なんての、コグトレで改善します、みたいな期待値をもつのは危険で、むしろ現状を受け入れて、それでもできる方法を考えるべきだ、という論調もあって、それはそうだな、と思いました。

ただ、会社の場合は、難しいですよね。仮にそういう認知機能が低い社員がいたら、その人でもできる仕事を割り振るってわけにもいかないじゃないですか?周りの社員が怒りますよね。「なんであの人には楽な仕事ばっかり何ですか?」って。

だから結論はないんですけど、ぜひ頭の片隅に置いておいてほしいのは、部下の中には認知機能が低い人がいるであろうってことです。しかも、そういう人は、プレッシャーを与えるとさらに認知機能が落ちる可能性があると言うことです。それを踏まえた人材マネジメントの方が現実的だと私は思っています。

この記事を書いた人

MBAの三冠王木田知廣

木田知廣

MBAで学び、MBAを創り、MBAで教えることから「MBAの三冠王」を自称するビジネス教育のプロフェッショナル。自身の教育手法を広めるべく、講師養成を手がけ、ビジネスだけでなくアロマ、手芸など様々な分野で講師を輩出する。

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