日本の多くの企業でも採用されている「目標による管理制度 (MBO: Management By Objective)」。これが今や時代遅れじゃないかという説があるそうです。GEさんの事例から、これからの人材育成を考えました。

今や時代遅れのMBO

MBOでは、典型的には1年をサイクルとして、期初に立てた目標をどこまで達成できたかを期末にチェックするということになります。その難易度と達成度によってS、A、B、Cなどの評価が決まり、これが昇級・昇格につながっていくことになります。ところが、この1年間というサイクルが、今の変化の早い時代には合わないのではないかというのがGEの持っている問題意識だそうです。

お話を伺ったのは、GEジャパンの人事部長、谷本美穂さん。「VUCAワールド」という言葉を何回も使われて、環境が大きく変わったことを強調されていました。これは、Volatility,Uncertainty,Complexity, Ambiguityという4つの英単語の頭文字をとったもの。いわく、

  • 変化が激しく(Volatility)
  • 不確実性が高く(Uncertainty)
  • 複雑系で(Complexity)
  • 曖昧模糊とした(Ambiguity)

で、あると。そうすると、従来のMBOの1年間でゴールを決めるというのは現実的ではなく、むしろDay to Dayでフィードバックをしながら、仕事の優先順位(プライオリティ)を柔軟に変えていくほうが良いとの判断だそうです。

すべてはデジタル化のために

ちなみに、このMBOを廃止するという流れ、GEにおける事業変革の一つの要素としてとらえたほうが正解でしょう。VUCAワールド、そしてデジタル化された世界では、製造業はこれまでとは違う形態であるべきだ、と。

たとえば、航空機のエンジン製造はGEが強みを発揮する分野ですが、それすらも変わっていっているそうです。単に作って売ってという売り切りではなく、エンジン内にセンサーを内蔵して、リアルタイムでエンジンの状況を把握し、トラブルが起こりそうになったら事前に察知してメンテナンスを自動で呼ぶ…。お客様に対する付加価値が変わっていって、結果として事業会改革が必要で、そのために意識改悪が求められ、MBOではない別の人材マネジメントシステムが必要になってきていると理解しました。

一橋大学の守島基博先生によると、MBOを廃止する流れはGE以外の米国企業でも顕著だそうですが(「なぜアメリカ企業は人事評価をやめるのか?」)、このデジタル化による事業改革は、多くの企業で求められているのでしょう。

成熟した人材だからできること?

MBOの廃止以外にも、GEでは様々なしくみでリーダーシップを生み出す取り組みをされています。たとえば、有名なGEバリューも、5年ぐらいで戦略にあわせて変わっていくそうです。現時点では「GE Beliefs (ビリーフス:信念)」と呼ばれるそうですが、

  • Customers Determine Our Success(お客さまに選ばれる存在であり続ける)
  • Stay lean to go fast (より早く、だからシンプルに)
  • Learn and adapt to win (試すことで学び、勝利につなげる)
  • Empower and inspire each other (信頼して任せ、互いに高め合う)
  • Deliver results in an uncertain world (どんな環境でも、勝ちにこだわる)

の5つの要素にまとまっています。しかもこれが「お題目」ではなく、個々の社員の「行動」レベルに落とし込まれるように運用されているそうです。これも含め、様々な人材育成のしくみがうまく結合されていると言う印象です。

ただ、一方で、これってGEのような優秀な社員がいるから成立するのでは?とも思いました。そこには、優秀な人を採用する→その人に信頼して任せる→パフォーマンスが上がる→会社が儲かる→優秀な人を採用できる、という好循環がありそう。でも、もし優秀な人を採用できなければこれが成り立たないわけで、「今いる人材」で事業変革をしたいという会社にとって、どうやってGEの事例を自社に取り入れるかは悩ましいでしょう。

ちなみに、今回谷本さんのお話を伺ったのは、日本の人事部さんが主催する「HRスクール」という企画の一環です。これ、シリーズになっていて、次回は楽天さんの話を聞けるそうで、今回のGEさんと比較してみると、面白そうです。

ge photoPhoto by Marufish

この記事を書いた人

MBAの三冠王木田知廣

木田知廣

MBAで学び、MBAを創り、MBAで教えることから「MBAの三冠王」を自称するビジネス教育のプロフェッショナル。自身の教育手法を広めるべく、講師養成を手がけ、ビジネスだけでなくアロマ、手芸など様々な分野で講師を輩出する。

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