「副業解禁」というニュースを聞くことが多くなってきました。実はその背後にあるのは、「優秀な人材に働き続けて欲しい…」という企業側の思惑だそうで、一見するといいニュース。ただ、よく考えるとそれって「優秀じゃない人材はいらない」ともなりかねず、社会全体に大きなインパクトがある気がします。

副業解禁は優秀な人材を囲い込むため

副業解禁は、2016年6月のロート製薬を皮切りに、ディー・エヌ・エー、ソフトバンクなど名だたる大企業でも採用されているとのこと。多くの場合申告制で、本業には影響がないことが確認されて、会社側から認められることになります。

IT産業では、大手企業に勤めていた人が起業して成功するなんてケースがよくあります。たとえばグリー創業者の田中さんが、楽天在職中に個人的な趣味の一環としてSNSを運営していたのが事の発端だというのは有名な話。ただ、これって企業側にとってはもったいない話で、せっかくの優秀な人材の流出につながります。そう言えば、先日お伺いした楽天の杉原さんも、一度社外に出た人材でも戻ってき易いようにする、とおっしゃっていました。

あるいは、そもそも社外に出る必要がなく、「新しいビジネスをやるんだったら、ウチの会社の中でやりなよ」という例もありますし、その延長線上に「最初は副業的にやるのでもいいからさ」という考え方が出てくるのでしょう。

したがって、「副業解禁」と言っても、会社の仕事が終わったら深夜にコンビニでバイトをするという生活費稼ぎや、会社のトイレで密かにやってたFXをおおっぴらにできる、というニュアンスではありません。

人間にしかできない仕事 vs. 機会にもできる仕事

面白いのは、同時進行で「人を削減する」業界もあること。銀行などを中心に○千人分の業務を削減します、のようなニュースがそれです。これは単なる人減らしと言うよりも、単純作業は機械に任せる環境が整ってきたと言うことでしょう。以前も取り上げましたが、RPA人工知能(AI)の進歩はめざましく、「えっ!こんなことまでできるの?」と驚くばかり。

要するに、人間は人間にしかできない仕事にフォーカスすべきという状況です。そして、その「人間にしかできない仕事」を上手にできる優秀な人材はどの企業でもてはやされる、一方で「機械にもできる仕事」をやる人材の必要性はなくなっているのが、副業解禁の背後にある大きな流れなのだと思います。

もちろん、企業側や政府も黙ってみているわけではなく、「リカレント教育」というキーワードで、大人が新たなスキルを学ぶ研修を推し進めようとしています。とはいえ、昨日まで単純作業をやってた人を、「今日からは『人間にしかできない仕事』をやってもらうから」と言っても、難しそうな気もします。

あるメーカーさんでは従業員を数百人単位で人工知能を学ぶための講座に送り込んだなんて話もあって、雇用を守るための努力は続くのでしょうが、マクロの視点で見ると、人材の二極化に、私たち個人個人が直面せざるを得ない未来がすぐそこにきているんだと思います。

人材育成担当者も二極分化?

ちなみに、この話をうかがったのは、リクルートワークス研究所のWorks編集長、清瀬一善さんから。副業解禁以外にも、人材育成の現在と近未来に関して、刺激的な話がたくさん聞けました。たとえば、人事部門に求められる役割も変化していて、単なる「人事屋」ではなく、

「科学的アプローチによる人材・組織開発」が必須。更に、その成果をステークホルダーと共有し、企業価値向上に寄与することが求められる

と。

たしかに、研修の現場でお会いする人事の方も、最近深く考えている人が多くなった気がします。研修を人に対する投資と捉え、「何のための研修なのか」、「そのための手段として適切なのか」、「効果をどう測定するのか」など、目にはみえずらい部分ですが、それだけに真剣に考えているというか。

ただ、一方で、研修も「とりあえずやっとけ」みたいのもまだあって、人財開発の部分でも二極分化が進んでいるのかもしれません。

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この記事を書いた人

MBAの三冠王木田知廣

木田知廣

MBAで学び、MBAを創り、MBAで教えることから「MBAの三冠王」を自称するビジネス教育のプロフェッショナル。自身の教育手法を広めるべく、講師養成を手がけ、ビジネスだけでなくアロマ、手芸など様々な分野で講師を輩出する。

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