MBAホルダーの中には、小難しい理屈を並べるだけの「使えない」人も混じっている。そのような人を生み出さないためには教え方にも工夫が必要。とくにグループワークは設計次第で良くも悪くもなる。そのための方法論を具体的な題材を交えながら解説します。

意外といる、「使えない」MBA

MBAと聞くと、「仕事、できそうだな~」と思う方も多いんですが、実際のところは「使えないMBA」というのもいます。なんだか小難しい言葉を使う割には、行動が伴わない。あるいは、理屈としては正しいんだけど、今の自社ではできないことを主張する、みたいな。そういう「使えないMBA」を生み出さないためには、教える側にも工夫が必要です。実際に私がマサチューセッツ大学のMBAプログラムで行っているやり方を紹介したいと思います。

結論を一言でいうならば、「自分ごと化」です。理論を聞いて、まあ、そんなものか~という「他人事」ではなく、「自分だったらこう使う」と考えてもらう。そして、受講後に実際に行動してもらう。これが重要になっています。

たとえば、前回のライブ配信でお届けしたベルビン先生の提唱したチーム役割論で考えてみましょう。詳しくは前回のライブ配信のアーカイブを見ていただきたいんですけど、要するに「高いパフォーマンスをあげるチームには、必要な役割が決まっている」ということで、9つの役割を提唱しています。これ、単に理解するだけでは十分ではないと私は思っています。大事なのは、こんなふうに考えてもらうこと。今のチームに貢献するために、自分だったらこの役割を果たそう。たとえば、「コンプリーター」として、仕事の最後の部分の仕上げにこだわろう、と考えるのです。

もしくは、今のうちのチームには、リソースインベスティゲーターがいない。だとしたら自分がその役割を果たそう。こう考えるのが、「自分ごと化」です。これなら、受講後の行動が変わるので、「使えないMBA」という罠に陥ることがありません。

MBAのグループワークの意義

では、こう考えてもらうためには、どうしたら良いか。もう、講師からの一方通行のレクチャーだけで無理なことは想像できると思います。そこで必要なのがグループワークです。たとえば、前回のライブ配信でも取り上げましたが、「自分がどのタイプが得意そうか」を考えてもらって、意見交換です。

そうすると、面白いことが起こります。たとえば、自分はベルビンの9つの役割の中で「シェイパー」つまり、「挑戦的で、精力的に障害に立ち向かっていく」だと思っていたんだけど、人から見ると「シェイパーと言うよりも、コーディネーターなんじゃない?」つまり、「明確な目標を示し、役割の分担を促す」方が向いてそうだよ、とコメントをもらう。

人間、意外と自分のことは分からないものです。とくに、「チームの中での役割」ですからね。自分が1プレイヤーとしてどうするか、ではなく、チームの一員として自分の役割は、です。その際、自分の頭の中の認識だけでなく、他人からどう見えるか、と言う情報が重要になってきます。

この他人からのフィードバックによって、最初の方に説明した「自分ごと化」がより進みます。最初は、「シェイパーとしてチームに貢献しよう」と思っていたのが、「ちょっと待てよ。やっぱりコーディネーターかな?だとしたら、具体的にはどんな行動なんだろう」。

単にやる気があるだけでなく、自身の実際の行動まで落とし込んで考えています。と言うことで、ここまで、他人事ではなく自分ごと化。そのためにもグループワークを取り入れようと言うことになりました

そして、もうここまで来るとお気づきだと思いますが、このグループワークの設計に講師の腕が問われます。悪い例からいきましょう。世の中の講師の中には、こんなグループワークの指示を出す人がいます。ベルビンのチーム役割理論を説明した上で、「では、グループワークです。チーム役割理論について意見交換して下さい」。

いやいや、このようなグループワークの指示だと、何を話したら良いか分からないですよね?結果として話が進みません。そして、悪い例の続き。グループワークが終わって全体の場になったら、感想を聞くわけです。「では、○○さん、ここまでの感想を聞かせて下さい」。

全くの無駄です。

そうではなく、明確にグループワークで話す内容を指示するのが重要です。たとえば、こんな感じ。「これからグループワークをやっていただきますが、お一人で一つ、自分だったどの役割がもっともチームに貢献できるかを決めて下さい。その際、自分が考えるだけでなく、人からのフィードバックももらって下さい。」

ポイントは、自分ごと化

こうすると、先ほどお伝えした「自分ごと化」が進みます。そして、全体の場に戻ってきていただいたら、何人かの人に発表してもらいましょう。「では、○○さん、ご自身がチームにもっとも貢献できる役割を、それを選んだ理由とともに教えて下さい」と聞くわけです。発表してもらうことによってコミットメント、つまりやる気が高まり増す。

そのうえで、発表が終わったら聞いてみましょう。「○○さん、ありがとうございました。ところでね、その役割に伴うリスクって何か思い当たりますか?」って。

そう、実はチーム役割理論では、リスクも指摘されています。たとえば、コーディネーター、つまり「明確な目標を示し、役割の分担を促す」だったら、「独善的と見られる」、つまり、勝手に仕切っているなぁ、と見慣れる可能性があります。あるいはシェイパー、つまり「挑戦的で、精力的に障害に立ち向かっていく」だったら、「周りの気分を害する」と言うリスクがあります。

ここまで来ると、自分ごと化がいっそう進むのがお分かりいただけるでしょう。そのリスクを回避するためにはどうしたら良いか、でよりよい行動を考えることができるわけですから。

ということで、まとめてみましょう。「使えないMBA」を生み出さないためにはグループワークは絶対的に必要。ただし、ユルいグループワークでは意味がない。「何を議論するか」を明確に指示して話しやすいようにする。グループワークのメンバー同士でのフィードバックを促進する。さらにはリスクを指摘して、より深い理解、そしてよりよい行動につなげる、と言うことです。

 

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この記事を書いた人

MBAの三冠王木田知廣

木田知廣

MBAで学び、MBAを創り、MBAで教えることから「MBAの三冠王」を自称するビジネス教育のプロフェッショナル。自身の教育手法を広めるべく、講師養成を手がけ、ビジネスだけでなくアロマ、手芸など様々な分野で講師を輩出する。

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