MBA (Master of Business Administration: 経営学修士)と言えば、ビジネス教育の最高峰。「高嶺の花」と言ってもいい憧れの存在でした。ところが今、MBAの価値の「大暴落」が起きています。その背景にあるのが、MBAの「資格化」。つまり、「単に資格としてMBAを欲しい」という人が増えていること。この流れに立ち向かうため、MBAの勉強をしている人が取り組むべき方法論を解説します。

それが、クラスメートと本質的なディスカッションをすること。これによって、ビジネスで成果を出すという本質的な力を高め、しかも、そのような人材を継続的に輩出するというビジネススクールの高評価(レピュテーション)を構築すべきと考えます。

MBAを取り巻く危機的な状況

私が担当しているマサチューセッツ大学の第24期の授業が先週終わりました。受講のみなさま、お疲れ様でした。仕事をしながらMBAの勉強をするというのは、相当たいへんだと思います。本当に頭が下がります。

第24期は、とてもいいクラスだったと思います。質問もたくさん出て積極的で。まぁ、その分タイムマネジメントにはかなり苦労しましたけど。あと、厳密には質問も、個人の興味の赴くままではなく、他の人にとってもインサイトを与えるような切り口の質問が多くなるとさらに良かったですけどね。あ、ただ、終わったと言っても、それは私の担当する講義、組織行動論だけです。カリキュラム自体はまだ続いていくので、頑張っていただきたいです。

ただ、このMBAに関しては、私は最近危機意識を持っています。それは、「MBA増えすぎ問題」。昔はMBAホルダーの数も少なかったので、希少価値があったわけです。ところが最近、日本でも、あるいは海外でもMBAをとる人が多くなりました。

資格としてMBAを欲しがる層

そして、中には「資格」としてMBAが欲しい、という人も出てきているんです。これ、私なんかから見ると本末転倒ですけどね。MBAって実力を上げるためのものじゃないですか。2年間なら2年間、あるいは働きながらだともっと長い期間学ぶことによって。そうではなく、単にMBAという称号が欲しいだけの人っているんです。実は先日、そんな中のお一人から相談を受けました。

その人は言うわけです。「いやね、一番楽してMBAがとれるって、どこの学校ですかね?」って。私はポカーン。そういう風に考えたことすらなかったので、え~っ?という感じ。でまた、その方は言うわけです。「○○大学って言うのは、海外の学校なんだけど、TOEFLのスコアがいらないんですよ。それだったら楽に入れますかね?」

ははぁ、と思いました。こういう、資格を欲しがる人の興味がMBAに向いているんだなって。昔から一定層は、そういう人がいたでしょう。資格マニアというかね。簿記の資格を取って、FPだ、今度は中小企業診断士をとろう、みたいに。とはいえそれが、仕事の成果に結びつくわけではないんですよね、そういう人は。なんか、資格を取っただけで安心しちゃうようなイメージがあります。

ちなみに、さっきの相談に来た方。私は個人的にはそういう人は、嫌いじゃないです。むしろ好き。だって、目的と手段が一致しているじゃないですか。MBAという資格を最も楽して取るための方法論を探すという観点で。

暴落する市場に抗うには?

だから、そういう資格マニアを否定したいわけじゃないです。でもね、問題なのはMBAの価値が下がるってことなんです。だってそうでしょ?さっきの資格マニアの人は、MBAって言っても仕事で成果を出すわけではないじゃないですか?そうすると世間から見て、「なんだ。MBAってその程度のものなの」っていう評価が下されます。

そう言えば、以前本も出てませんでしたっけ?「OLだった私がMBAをとれた」みたいな書名の。うわー、痛いな、と思いますよ。世間から、「その程度でとれるんだ w」なんて思われるわけですからね。

もっとリアリティを持って言うと、転職市場。実はヘッドハンターの間では、既に一定の評価ができています。MBAって言っても、あの学校の卒業生は転職の相談に乗りにくいよねって。ヘッドハンターのビジネスモデルは、求人している企業にその人を紹介して対価をいただくわけです。年収の3割とか、相当な金額の。それなのに、入社したらパフォーマンスが上がらなかった、ではトラブルになります。

もうすでに、そういう評価、悪い意味での評価を確立してしまった学校もあるわけです。今後ますますそういうのは増えていくと私は思っています。そうすると、MBAで学ぶ際に、「どこの学校で、何を学んだか」が重視されます。また、その学校がどういう人を輩出しているかも大事です。

となると、実は一緒に学んでいる人、クラスメートが重要になります。この人たちと一緒に、本物のディスカッションによってビジネスの実力を上げて、そういう優秀な人を輩出し続けている学校の卒業生である、というのがブランドになるわけですね。そうすると、私の講義受けてくれた人はピンときていただけます。「なるほど。だから、ディスカッションを誘導していたのか」って。別に単に楽しいからではなく、流行だからでもなく、皆さんの思考力と伝達力を上げるための取り組みなんです。

冒頭に言ったとおり、働きながらMBAで学ぶ方は、本当にたいへんだと思います。そんな一生に一度の経験が、将来役立つものになることを願っています。

 

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この記事を書いた人

MBAの三冠王木田知廣

木田知廣

MBAで学び、MBAを創り、MBAで教えることから「MBAの三冠王」を自称するビジネス教育のプロフェッショナル。自身の教育手法を広めるべく、講師養成を手がけ、ビジネスだけでなくアロマ、手芸など様々な分野で講師を輩出する。

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