今アメリカで問題になっている、Quiet Quitting、「静からなる退職」と呼ばれる現象をご存じでしょうか?実際に退職することではなく、燃え尽き症候群にかかった従業員がサボることを指します。俗に、潜在的には従業員の50%がこれにあたるとも言われます。この対処法がウェルビーイング、つまり従業員の心身の健康を高めようという取り組みです。

Quiet Quittingとは静かなる退職

今アメリカで問題になっている、Quiet Quittingという言葉、ご存じでしょうか?日本語では「静からなる退職」と呼ばれます。クワイエットが静か、そしてQuitというのは辞めるという意味の英単語です。なので、Quiet Quittingで静かなる退職。ただ、実際に退職してしまうと言うことではありません。ものすごく単純に言うと、サボる。これが、アメリカでは大きな問題になっているんです。要するに、サボる人が多くなってきているよね、と。

それも、あからさまに、「はぁ~、かったりー。やってらんねーよ」というのじゃないんです。そこはクワイエットですからね。あくまでもさりげなく、です。言われた以上のことはやらない、昇進・昇給にも興味がない、同僚が頑張っていても定時になったら帰っちゃう、そんなイメージです。

え?そんな人、日本にもいるじゃん?と思うかもしれませんが、アメリカですからね。日本よりも解雇規制がユルいです。つまり、「お前、クビ」というのが言いやすい状況です。そうすると思うじゃないですか。クビにならないためには一生懸命働かなくちゃいけない…はずなのに、Quiet Quittingが進んでいるのは問題だ、となります。一説には、潜在的には労働者の50%がQuiet Quittingしているなんて説もあるみたいですからね。

加えてもうひとつ、エンゲージメント。貢献意識です。実は日本よりもアメリカの方が会社への貢献意識はよっぽど高いんです。ここに今、別の動画が出てると思いますけど、ある調査によると会社にエンゲージメントを感じている人の割合は、日本では何と6%。ところがアメリカでは32%という結果も出ています。それなのに、ですよ。エンゲージメントが高いにもかかわらず、Quiet Quittingが起こっているのはどういうことなんだ?と疑問が出てくるわけです。

Quiet Quittingの背後にある燃え尽き症候群

答は、燃え尽き症候群だそうです。コロナ禍でリモートワークが始まったじゃないですか。そうすると、アメリカの人はモーレツに働くようになったそうです。1日あたりの労働時間が12時間を超える、みたいな状況で。そんな緊張状態が2年ぐらい続いて、ヘトヘトになっている。そこに来て、アメリカ経済が減速しそう。IT業界を中心に大量解雇なんて起こっています。そうすると、働いている人は思うわけです。「ここまで一生懸命働いてきたのに、なんだよ」って。

ましてや。ましてやですよ。その解雇が、たったひとりの億万長者のせいだったとするじゃないですか。そう、たとえばツイッター社。イーロン・マスクさんはツイッター社を買収後、経営陣を即刻クビにしました。その後は従業員の大量解雇という流れです。これ自体が正しいかどうかは分かりません。というか、私なんかの目から見ると、資本主義ってそういうものだよね、と思います。実際、ツイッター社は2年連続で赤字なんて情報もあって、経営陣はいったい何やってたんだよ、と。

でも、従業員目線でみると、ものすごく疲弊感を感じるんでしょうね。たったひとりの変わり者の億万長者のせいで、大量解雇なんて。そんな疲弊感、燃え尽き症候群がQuiet Quittingを引き起こしている元凶であるというのは、仮説ですけども十分説得力があります。

だから、ちょっと面白いんだけど、キャリアコーチとかもQuiet Quittingを勧める場合があるそうですね。アメリカだと、コーチを付けているビジネスパーソンも多いんでしょうね。コーチに相談するわけです。「燃え尽きそうです」って。そうするとコーチは応えるんでしょう。「選択肢のひとつとして、Quiet Quittingをするのも手ですよ」なんて。

もはや社会現象のQuiet Quitting

もう、こうなってくると、社会現象みたいに見えますけどね。アメリカ社会もいろんな意味で制度疲労を起こしていて、トランプ現象と呼ばれる背後には、ブルーカラーの人たちの「オレたちは見捨てられた」みたいな怒りがあるって言うじゃないですか。だから、ブルーカラーのトランプ現象、ホワイトカラーのQuiet Quitting、なんて、全米が問題を抱えているのかもしれません。

そんな状況ですから、Quiet Quittingをしている人に厳しい態度をとっても効果はないそうです。「あなたね、このままの業績だと、クビの対象になるよ」と言ったとしても、「はぁ、頑張ります」と口先で言うだけで、行動を変えないんでしょう。アメリカも業種によっては人手不足の分野もあるみたいですからね。「辞めさせられるものなら、辞めさせて見ろ」と思う人もいるんでしょう。

Quiet Quittingの対処としてのウェルビーイング

では、どう対処したらいいか?ここで出てくるのが「ウェルビーイング」という言葉です。また横文字ですけどね、日本語にすると健康経営と言っていいでしょう。要するに、従業員の心身の健康を守る、もしくはより積極的に高めていくのが経営の役割だ、という考え方です。

燃え尽き症候群になって、Quiet Quittingになってしまうぐらいなら、その前に手を打ちましょう、と。考えてみれば、いろんな会社でQuiet Quittingが問題になっている。だとしたら、ウェルビーイングを本気で追求することで、他社に打ち勝って業績を上げることはできるかもしれないですね。

さて、ここで日本の話。このQuiet Quitting、おそらく日本でも問題になると思います。なんでかって言うと、疲弊感、燃え尽き症候群の人が多いから。日本人って、ここ30年ぐらい、すごいストレスにさらされていると思うんです。1995年の阪神淡路大震災に始まって、オウムのサリン事件、その後東日本震災、熊本震災、あと、水害は数え切れないほど起こっています。10年に1回ぐらい、数千人規模で人が亡くなる事件があるって、ものすごいストレスです。

そうすると、日本でもQuiet Quittingが広まる、というのもあり得る話ではないでしょうか。そのためにも、企業経営者にとっては今からウェルビーイングに本気で取り組む必要がありそうですね。

この記事を書いた人

MBAの三冠王木田知廣

木田知廣

MBAで学び、MBAを創り、MBAで教えることから「MBAの三冠王」を自称するビジネス教育のプロフェッショナル。自身の教育手法を広めるべく、講師養成を手がけ、ビジネスだけでなくアロマ、手芸など様々な分野で講師を輩出する。

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