部下の指導でよく使われる「ロールプレイング」。たとえば、営業マンの育成で、上司がお客様役になってトークの練習をさせる時に使います。ところが、多くの人はロールプレイングのやり方を知らず、結果として時間が無駄になってしまっています。
意外と役立たないロールプレイング
典型的には、営業マンの教育でロールプレイ使います。英語のロールというのは「役割」ですから、たとえば上司の方がお客様役、部下が営業マン役で、プレイ、つまり営業トークを演じるわけですね。簡単な世間話が終わった後、営業マンが切り出すわけです。「社長、御社の最近の業況はいかがですか?」って。そうするとお客様役の上司が「おかげさまでボチボチですね~」って返事をする。それに対して、「切り返しトーク」って言いますけれど、どうやって話を進めていくかを練習するわけです。ボチボチですね、で終わったら、本当の世間話になっちゃいますからね。
一通り練習が終わったら、上司からフィードバックです。お客さん役から普通の上司に戻って部下に言うわけですよ。「お前な、業況を聞く前に、お客さんと信頼関係を作らなきゃ。いきなり『業況は』って聞いても、答えてくれるわけないだろ…」みたいに。それを聞いた部下は、「なるほど。わかりました。勉強になります…」っていうのがよくあるやり方。え?何それ?そのやり方まずいの?って思うかもしれませんけど、マズいです。
何でかって言うと、せっかくの上司のフィードバックが部下の頭の中に入っていかないから。もちろん部下は、「わかりました。勉強になります」とは言います。でも、実際の商談で行動が変わるかというと、かなり怪しいです。おそらく、本物のお客様のところに行っても、ところで社長様今日は、っていう風に、いきなりなっちゃうみたいなことが起こると思います。そういう意味で、フィードバックが頭に入っていないんです。さっきのやり方だと。
事前に「何を学ぶか」を伝える
だとしたらこれを避けるためにはどうしたらいいか?それが最初に何を学ぶかを伝えることなんです。つまり漠然とはじめて後出しみたいに、いや実はお前信頼関係の構築が大事だよなーって言われてもなかなか頭に中に入っていかない。そうではなくて最初からこういう風にやってくださいねというのを伝えておきます。その上でやってみてもらって、ほらできてないじゃない?っていうふうに理解せしめる、理解してもらうのが大事なんです。
実際にさっきのロールプレイングに戻りましょう。もうね、事前に伝えてきます。いやね、お前。お客様に業況、状況を聞く前にちゃんと信頼関係を構築することが大事なの。わかる?わかります。じゃあこのロールプレイングで信頼関係を構築できたと思ったら、状況の話を聞いてみて。いける?行けると思います。
ロールプレイング終わりました。フィードバックしてあげましょう。「お客様との信頼関係できた?」「いや~、結構難しいですね」。「だろ?だから練習が必要なんだよ」「確かに!」「もう一度やってみようか?」「ぜひお願いします」
そう。実は、人間って自分ができてるって思ってることは学習しません。新しい行動を身に付けようとはしません。無意識のうちに、お客様と信頼関係できてるもんねって、いうの思っちゃってる人に対しては、まずあなたはそれができてないよねって理解させなければいけないわけです。
そうすると勘のいい人はここで実は疑問が頭ん中に沸き起こっていると思います。そうですね信頼関係の構築っていうのは分かるんだけど、それって一体的にはどういう風にやるのって言う疑問ですね。
実はこれが今回のキモ。そもそも、お客様と信頼関係を構築するというのは、どんな行動・言葉によって達成できるのでしょうか?まず、部下に聞いてみましょう。部下はは答えます。「そうですねちゃんと相手の目を見て話すことですかね」。きいた上で、もちろんそれも大事だよ。いいと思う。でもそれだけではなくて他にも実はいろんなテクニックがあるよね、例えばうなづき方を合わせる。相手の言葉の語尾の方を繰り返さ相槌の打ち方をする。そして笑顔。本物の笑顔になるための方法論を知っておく、みたいな話があります。
成功パターンを言語化する
それはちゃんと伝えた上でロールプレイングに取り組んでもらうってことがすごく重要なわけです。そしてまたここで勘のいい人は気づくでしょう。あなるほどね。ということは最初にどんな行動がお客様との信頼関係構築には重要かちゃんと言葉にしておかないといけないんだなっていう風に。
ところが多くの人はそういうことを言葉にはできません。もちろん優秀な営業の人であれば自分がやってきました。いろんなお客様にもまれるウチに、自分はいつのまにかできるようになってる。ただ、自分ができるって話と相手の人に説明できるって話は別なんですね
ということで最初はどんな行動が必要なのかってのをピックアップして言葉にする。そこから始めてもらうってのが実はロールプレイングの最も大事な要素ということになります。「そっかー、たいへんだなぁ」という感想をお持ちかもしれません。でも、大変でもあるんですけれども逆にラッキー良い側面もあります。
何かって言ったらば自分がトップ営業マンでなかったとしても、部下の育成はできるっていうことなんです。だってそうじゃないですか。自分がやってなかったとしても、部下の営業マンの優秀な人を見ていれば、もしくは厳密には優秀な人とそうではない人の違いを見ていると、どんな行動がお客様との信頼関係につながるかってのが見えてくると思います。それを言葉にして別の部下に学ばせるってアプローチですね。
これならば自分が例え優秀な営業マンでなかったとしても、あるいは自分が営業経験すらなかったとしてもその分野において部下の育成をすることができるんです。
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この記事を書いた人
木田知廣
MBAで学び、MBAを創り、MBAで教えることから「MBAの三冠王」を自称するビジネス教育のプロフェッショナル。自身の教育手法を広めるべく、講師養成を手がけ、ビジネスだけでなくアロマ、手芸など様々な分野で講師を輩出する。
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