コーチング「だけ」では難しい部下の育成

管理職研修にコーチングを採り入れている企業も多いものですが、実際の現場では若手の育成にはコーチング「だけ」では難しいものです。これを乗り越えるのが「問題解決コーチング」。その名の通り、問題解決のフレームワークを念頭において、部下に考えさせる手法です。これによって、部下自身が仕事の成果をあげるのをサポートしながら、育成も同時にできます。

これ、何かって言うと、問題解決のフレームワークを念頭におきながら、部下に考えさせましょう、となります。まず、問題解決のフレームワーク。これは、4ステップからなりますが、まず課題の設定。2番目が問題箇所の特定。三番目が問題の本質の発見。そして四番目、打ち手の洗い出しと選択、になります。たとえば、誤字脱字が多い部下で考えてみましょう。問題解決フレームワークの中の4番目に絞って会話をしてみますね。

「そうか。じゃあ、誤字脱字をなくすためにこれからどうしたらいいと思う?」

「気をつけます」

「うん、気をつける以外に、何か自分でできることってある?」

「いや、思いつかないです」

普通のコーチングであればここで終わりです。なぜならば、「答は相手の中にある」という前提に立つので、相手の中が空っぽだったとしても、示唆を与えることはしないから。そこで、問題解決コーチングの出番です。

問題解決コーチングの会話例

「じゃあ、二つに分けて考えてみると、何か見えるかもしれない。たとえば、文章を書いている最中と、書き終わった後で、何か打ち手を考えられる?」

「あ、書き終わった後と言えば、見直すことをしっかりやるってことですか?」

「そうそう。しかも、見直すって言うのも、また二つに分かれるかも。たとえば、自分で見直すと他人に見直してもらう、みたいにね」

「じゃあ、お客様向けの文章を書いたら、毎回課長に見直していただく、と?」

「う~ん、それだとお互いにたいへんそうだな」

「ですよね」(笑)

「じゃあ、こうしたら?少し時間をおくことで、自分の書いた文章を客観的に見れるようにする。文章を書いたら、30分別の仕事をやる。その後、客観的に見直してみる。そう言うの、効果ありそう?」

「そうですね。やってみたいと思います」

「でさ、今の会話、最初と最後で発想が広がったのって実感できた?」「はぁ」。「最初は、『気を付けます』だけだったんだよね。でも、途中で書いている途中の視点、書いた後の視点ていう二つの視点で考えたじゃない?」、はぁ、「その後、自分の視点と他人の視点で考えたよね?」こういう風に視点を広げることが、問題を解決するには有効なんですよ。ピンとくるかな?」「まぁ、なんとなく分かります」

こんな会話で、部下が様々な打ち手を考えられるように誘導するんです。これが、問題解決コーチング

誘導なので、コーチングのそもそもの考え方、「答は相手の中にある」とは真逆の世界観です。なのでたぶんピュアにコーチングを信奉している方からすると、極めて「邪道」に見えてしまうかもしれません。でもね、実際に現場で仕事の成果をあげながら育成するのって、たいへんじゃないですか。だとしたら誘導したほうが良いというのが私たちの考え方です。

もちろん、誘導の度合いは部下のレベルによって変えていきます。部下のスキルレベルが低い時には、思いっきり誘導します。でも、部下のレベルが上がってきたら、誘導の強度を下げましょう。だんだんと、上司の助けなしにも部下が自分自身で考えられるようにしてあげるとよいですね。まあ、実務上は、「この人できるかな」と思って誘導の強度を下げると、「あ、やっぱりできなかったよ」ってのはよくあることですけどね。だからそこは、行ったり来たり。時には強度を下げて様子を見て、やっぱり強度を上げよう、の用に微調整が必要です。

組織全体で問題解決力を上げる

さぁ、ということで、「問題解決コーチング」の紹介をしてきました。ただ、前提としては、上司自身が問題解決のスキルがある、というのがありますね。上司がね、問題解決できない、つまり、思いついた打ち手にパッと飛びつく、のような人だとできないわけですから、まずは上司自身から始める、と言うことになりますけど

あるいは、組織全体で、上司も部下も一緒になってグループコーチングできると、それは素晴らしいですよね。ちょっとそれは、会社のカルチャーにもよりますけど、部下が上司に対して、「打ち手に飛びついちゃってませんか?」なんて言える雰囲気があると、問題解決がはかどりそうです。

ちなみにですけど、私、コーチングそのものを否定しているわけではないので、念のため最後にそこも強調させて下さい。私自身コーチングの資格を持ってますし、それをとる過程ではすごく勉強になりました。しかも、ひと頃コーチについてもらったこともあります。

育成に関しても、たとえば、管理職向けのコーチングだったらすごく意味があります。たとえば、管理職は悩むわけじゃないですか。あるプロジェクトがあって、それにゴーサインを出すか否か、なんて。そんなときコーチがいて、「判断基準は何ですか?」「費用対効果ですね。ROI」。「あなたの立場だと「効果」は何でしょう?単に儲かることですか?」、「う~ん、言われてみれば、金銭面だけではないかも…」。「金銭面ときたら、当然人材面も?」。「そうですね。プロジェクトに関わるメンバーの育成も効果に含まれますよね」、なんて会話で、管理職の視点が広がります。十分意味があることです。なので、コーチングが役に立たないというのは若手の育成に絞った話です。

逆に言うとね、「答は相手の中にある」っていう前提でコーチングを捉えている人は、「こんな手法、使えない」って感じると思うんですよ。たとえば研修で学んだとしても、なんだかのんきなこといってるなぁ、みたいな。でも、それってすごくもったいないことです。根源的には、コーチングの手法、そしてそのテクニックは、自身のコミュニケーションスタイルの幅を広げてくれるものですからね。ある意味、コーチングの真の価値を発揮させるのが、「問題解決コーチング」であると私は思っています。

 

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この記事を書いた人

MBAの三冠王木田知廣

木田知廣

MBAで学び、MBAを創り、MBAで教えることから「MBAの三冠王」を自称するビジネス教育のプロフェッショナル。自身の教育手法を広めるべく、講師養成を手がけ、ビジネスだけでなくアロマ、手芸など様々な分野で講師を輩出する。

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