「プロ意識が足りない」、「お客様目線に立っていない」、など部下の間違った心構えをただすのは、上司の責任です。とはいえ、あまりにも当たり前すぎることをわざわざ指摘しなければいけないのはストレスの元。これを解決するのが、バリューの3分間クッキングです。自身の価値観<バリュー>を反映させた言葉を部下と共有する事で、自然と部下の心が整ってくる手法を紹介します。

仕事で腹を立てたことから「行動規範」を作る

部下の心構えの指導をするって、本当にイヤですよね。たとえば、「やっつけ仕事」をする部下。 やっつけ仕事というのは、中途半端なくせに「仕事をできました」って言っちゃう、いい加減なやり方です。これ、別にスキルが足りない、知識が足りないという問題ではなくて、むしろ心構えの問題です。

似たような話としてはミスが多い部下というのがあります。新入社員ならまだしもある程度のキャリアを積んでいるにも関わらずに平気で同じミスを繰り返す。これもスキルの問題というよりもむしろ心構えに問題がありそうです。上司としては変えてもらうように指導しなければなりません。でも、あまりにも当たり前すぎることを言わなければいけないというのは、ストレスです。なに、子供じゃないんだから、こんなことまで言わせるなよ、と。

ではどう対応するか。言葉で指導するのはストレスが大きい。だとしたらむしろ文章で指導すると良いのではないかという発想です。しかも文章であれば、その部下のみならず似たような問題を抱えている他の部下に対しても同時に指導できますからね。

具体的には仕事の中で頭に来たこと、腹が立った事、怒りを覚えたことがスタートです。ただ、それをそのまま部下にぶつけるのではなくてポジティブに言い換えて文章にしてみましょう。

たとえばある時に、やっつけ仕事をする部下に対して腹を立てました。データの入力をお願いしたんです。ネット広告で、どんなキーワードにいくらの広告費がかかっているかをエクセルにまとめて下さいね。ところが、その部下はちゃんとやらないんですよ。一部だけ入力して終わり。「こっちを入力しないのは、何か意図はあるんですか」、「…別に」。腹が立ちました。とはいえそれをそのまま部下にぶつけて、「いいかげんな仕事するなよ」と言っても、部下の行動はなかなか変わりません。

それどころかね、かえってその部下自身の自己効力感が落ちてしまう可能性がありますからね。自己効力感は、今回は深掘りしませんが、「自分はできる」という感覚です。これがないと、その部下の成長が止まってしまいます。だから、言いかえ。「私たちは、自分の仕事はチェックも含めてやりきっています」、という文章にするんです。それを部下と共有して、「こういう考え方でやっていこう」と言います。

言葉にすると、「バリュー」と言いますが、要するに行動規範です。「ウチの組織は、こういう価値観、バリューで、行動規範で動きますよ、というのを言葉にして示す、共有する事によって部下の心が整ってくるんです。このやり方ね、怒りをキッカケに簡単にバリューができるので、私は「バリューの3分間クッキング」と呼んでいます。料理番組みたいにね、おてがるにささっとできて、しかもおいしいというイメージです。

「もうできている」という錯覚が組織を変える

そして、このポジティブな文章に変える時にコツがあります。二つですけれども、一つ目は、分の最初を「私たちは」というところからスタートです。これによって、その問題がある部下だけでなく、この組織で働く人みんなにとって、ある意味上司である私にとっても大事な価値観になります。

コツの二つ目は最後の締めくくりです。ほにゃららしていますという形で文章を終えるんです。日本語としてはちょっと変ですけどね。「私たちは、自分の仕事はチェックも含めてやりきっています」という締めくくりです。これ、何でかって言うと、「錯覚」して欲しいんです。もう既にその状態に達してしまっているって。そう思いこんでくれれば、部下の行動は自然と変わってくるじゃないですか

逆に、「やりきる事を誓います」だと、なんだか苦しいですね。うわぁ~、たいへんだなぁ、という感覚になってしまいます。それを避けるのが、語尾の工夫です。ちなみに、このバリューの3分間クッキング、私がヘンな事をやって、部下から不満の声が聞こえたときも作ります。

たとえば、こういうの。「私たちは、良い点悪い点含めて情報を共有しています」。当時ね、リーマンショックで会社が苦しいとき。ついつい部下にも厳しく言うわけですよ。無駄を排除しろ、お金をあんまり使うなって。ところが、部下の方は、会社が厳しいという状況を知らないと、なんで突然そんな事を言い出すのか、って思っちゃいます。

部下の不満をバリューに昇華する

そこで初めて私も伝えるわけです。「いや、実は売上も下がっているし、業績が厳しいんだ。だから無駄な経費はカットしたいんだよ」って。聞いた部下は、怒りますよね。「だったら最初から言ってくださいよ。私たちだって混乱します」。

あ~、たしかに。これは私が悪かった。なので、バリューを作りました。先ほどの、「私たちは、良い点悪い点含めて情報を共有しています」というものです。こういう話をすると、ときどき質問をいただきます。「そうやって、永遠にバリューを作り続けるんですか?」って。実はそんな事はなくて、せいぜい10-15個出てくると、もう完了、コンプリート、という感じです。

結局、怒りを感じるというのは、自身の価値観を侵害された、価値観にあわない行動なわけじゃないですか。それは、100も200も出てくるわけではないで。部下の心構えがなっていない、と思って日々悩んでいる管理職の方、多いと思います。ぜひこのバリューの3分間クッキングにトライしてみてください。

 

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この記事を書いた人

MBAの三冠王木田知廣

木田知廣

MBAで学び、MBAを創り、MBAで教えることから「MBAの三冠王」を自称するビジネス教育のプロフェッショナル。自身の教育手法を広めるべく、講師養成を手がけ、ビジネスだけでなくアロマ、手芸など様々な分野で講師を輩出する。

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