戦略立案と聞くと、外部環境の分析、内部資源の精査から最も重要な打ち手を発見するという、クロスSWOT分析に代表されるロジカルなアプローチが頭に思い浮かぶでしょう。しかし、これ「だけ」が正解ではありません。逆に、とりあえずやってみて、うまく行ったら続ける、というボトムアップのアプローチもあり得ます。アメリカで検証された手法、エフェクチュエーションと、その際の下記の5つの注意点を解説します。
エフェクチュエーションによる戦略立案
企業の戦略の立て方には王道があります。まずはクロスSWOT分析です。ストレングス、ウィークネス、オポチュニティー、スレットの頭文字をとっていますが、要するに内部資源の強味と弱味、外部環境の機会と脅威の分析から始めましょう、となります。
あとはマス目によって戦略オプションを洗い出します。そして戦略オプションの中からどれが最も重要かあるいは緊急性が高いかによって戦略目標を選び取ることになります。いずれにしても極めてロジカルなアプローチです。なので英語では、「コーゼーション」 (causation)なんて呼ばれます。コーゼーションのコーズはビコーズのコーズですから、理由づけをする、となりますね。
ところがこれとは全く違うアプローチがあるのではないかというのがアメリカの研究からわかってきました。この研究というのが面白くてアメリカで起業を成功させてる人の行動を調査したんですって。起業して、CEOとして10年以上勤めて、そのあと上場させたと言う人々です。
そうすると、思うじゃないですか。そういう起業家って、当然クロスSWOT分析やってるんだろうな、って。実は違いました。むしろとりあえず何かをやってみるそしてそれがうまくいけば続けていってビジネスを拡大する。逆に言えばうまくいかなければ諦めて撤退する。そんな行動が見えてきたのです。
研究者たちはこのような行動をエフェクチュエーションと呼びました。
ここまで来ると、MBAホルダーの方であれば一つのケースを思い出しますよね。そう、ホンダの米国進出です。ビジネススクールの最初に読むケースだと思いますけれど、アメリカではさぞや大型バイクが売れるだろう、と思ってホンダが乗り込みました。ところが、さっぱり売れない。
どうしたらいいんだろう?と悩んでいたら、代わりにホンダの社員が仕事で使っていた50ccのスーパーカブという小さいバイクが人々の目に止まり、売れた。それをきっかけにどんどんとビジネスを広めていった、という話です。
ビジネススクールでも、「これは戦略であるのか、戦略ではないのか」なんて話になりましたが、要するにエフェクチュエーション的な戦略です。うまく行ったものを継続していく、ということをやったんでしょうね。
エフェクチュエーションの5原則
もちろん、ただやればいいというわけではなく、そこには5つの原則があります。。
1.「手中の鳥(Bird in Hand)」の原則。どこかにいる青い鳥を追い求めるのではなく、手の中にいる鳥、つまりすでに持っているリソースを活用しましょう、となります
2. 「許容可能な損失(Affordable Loss)」の原則。撤退ラインを決めると言ってもいいでしょう。逆に言うと、致命的な損失は負わないようにする、ということです。ただ、実際に撤退するとなると、それはそれでかんたんではないですけれどね。私の好きな経営者で小山昇さんという方は、こんな事を言っています。「事業を撤退するときは、少しづつ引くべきです。一気に撤退すると、社員の心がすさんでしまいます。」と
3.「クレイジーキルト(Crazy-Quilt)」の原則。キルトというのは、パッチーワークキルトって言われたりしますが、手芸の一分野で端切れをつなぎ合わせて大きな作品を作るというものです。
当社のお客様の日本手芸普及協会さんの先生でも、素晴らしい作品を作る方います。実際私も中野の本社にお邪魔して拝見しました。エフェクチュエーションでは何を言っているかというと、色んなものを組み合わせましょうよ、となります。ビジネスでは、ついつい「あそこは競合だから打ち勝たねば!」となりがちですが、いや、競合というよりも協業になるんじゃないの?という発想です。それが、クレイジーという名前の所以ですね
4. レモネードの原則(Lemonade)。アメリカのことわざに「When life gives you lemons, make lemonade.」というものがあるんですって。「人生があなたにレモンを与えたときには、レモネードを作りなさい」。ちなみに、アメリカでは「レモン」って不具合品の意味もあります。中古車を買うときに、「これ、レモンだよ」みたいな表現をします。日本語では「しょっぱい」っていう言葉がありますが、英語では酸っぱいがダメなものの表現なんですね。ということは、人生がレモンを与えたとき、つまり自分の周りには不具合品しかなくても、工夫によってはレモネードで人に売れるものになるんじゃない?という発想です。
5. 飛行機の中のパイロットの原則(Pilot-in-the-plane)。パイロットが計器盤を見て操縦するように、ちゃんと状況をウォッチしておきましょう、ということですね。万が一高度が下がったら不時着とか、あるいは緊急脱出するということも視野に入れておきましょう、ということでしょう。
二者択一ではないエフェクチュエーションとクロスSWOT
さあ。ここまで来ると、クロスSWOTはいらないの?なんていう風に思われてしまうかもしれません。でも実際はそうではなくてクロスSWOT的なアプローチとエフェクチュエーションのアプローチは補完的つまり両方とも必要です。学問的にはゼロからイチを作るにはエフェクチュエーションが適してますよ、そして1から10を作るにはクロスSWOTのようなアプローチが適してますよって言われているそうです。
ただ現実的には0から1と作る際にもクロスSWOTは有効です。だって何でもいいからやってみるっていうわけにはいかないですからね。とりあえず有望そうな所、とりあえずうちの会社の強みを洗い出すという観点においてはクロスSWOTを最初にやるべきだと私は思っています。
ただクロスSWOTが絶対的な正解を導くわけではないので、クロスSWOTで当たりを付けて一番良さそうなところに手をつけてみる。ただその際には当然のことながら撤退ラインを決めておく。このような補完的な使い方が正しいでしょう。
ちなみに、クロスSWOTは一度やって終わりではなく、継続的に見直していくものです。だって、外部環境だって日々変わっていくわけですからね。しかも、意外と自社の強みを見落としている場合もあります。社外の人から見ると、いや、すごいよそれ、というのを自社内だと当たり前過ぎて気づいていない、のような。
私の講座を受けてくださった人は、そんな観点で「強み発見ワークシート」を見直してみてください。色々と発見があると思います。というか、私も定期的に、半年に1度ぐらいの戦略見直しの際に、強みを改めて考えています。
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この記事を書いた人
木田知廣
MBAで学び、MBAを創り、MBAで教えることから「MBAの三冠王」を自称するビジネス教育のプロフェッショナル。自身の教育手法を広めるべく、講師養成を手がけ、ビジネスだけでなくアロマ、手芸など様々な分野で講師を輩出する。
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