「言い訳が多い」など、上司から見ると「なぜそのような行動を取るのかわからない」部下がいます。その心の中を知るには心理学を理解するのがお勧めです。ただ、一口に心理学と言っても、あまりにもざっくりしたものもあれば細かすぎてビジネスの現場では使えないものもあるというのが正直なところ。ここでは、アレン・エドワーズ氏の提唱する15の欲求理論で、上司から見ると謎の行動を取る部下の心の中を解き明かします。

アレン・エドワーズの15の欲求(EPPS: Edwards Personal Preference Schedule)

  1. 達成欲求 何かを達成したいという欲求
  2. 追従欲求 誰かからの指示や社会的な慣習にに従いたいという欲求
  3. 秩序欲求 計画をしっかり立てたり、物事を整理したいという欲求
  4. 顕示欲求 集団の中で中心人物になりたいという欲求
  5. 自律欲求 責任や義務から逃れて自由になりたいという欲求
  6. 親和欲求 他者と友情や一体感を持ちたいという欲求
  7. 他者認知欲求 他者の感情や行動の背景を知りたいという欲求
  8. 救護欲求 誰かに助けてもらったり、気を遣われたいという欲求
  9. 支配欲求 リーダーとなり、他者に影響力を発揮したいという欲求
  10. 内罰欲求 他者からの批判を受け入れたり、自らの失敗を認めたいという欲求
  11. 養護欲求 誰かの世話をしたり、手助けをしたいという欲求
  12. 変化欲求 新たな体験を求めて、決まり切ったやり方を避けたいという欲求
  13. 持久欲求 (仕事を完了させるため)何かをやり続け対という欲求
  14. 異性愛欲求 異性と付き合ったり、魅力的に見せたいという欲求
  15. 攻撃欲求 自分の意見を押し通して他者を批判したいという欲求

外罰性が強い「言い訳する部下」

管理職の方ならば、「言い訳が多い部下」に悩まされたことがあるのではないでしょうか?仕事を依頼して出来上がってきたものがイマイチなとき。「ここをこう変えて…」と指示すると、「いや、それはこれこれこういう意図があって…」と言い出す。あるいは、「時間がなかったものですから」、「そういう指示だと理解していました…」などなど。

思わず言いたくなります。「そういう言い訳はいいから、早く修正してくれ!」と。ところが、本人に悪気は全然ない。別に、言い訳、もしくは言い逃れして責任を放棄しているわけではない。単に、そういう反応をするのが癖になっているだけ。

まぁ、単なる癖なわけだから、やめればいいのにな~、と思うわけですが、不思議ですよね。なんでそういう癖がついているか。それを知る手がかりが、「外罰性」という概念です。罪と罰の罰です。外の罰と書いて外罰性と呼びます。何か問題が起こったとき、その原因が内的、つまり自分にあると思うか、外的、つまり自分以外にあるかということ。言い訳が多い部下というのは、外罰性が強いということ。さっきの、仕事の成果物がいまいちなとき、「悪いのは自分ではないんですよ」と言わないと気がすまないわけです。

私は逆に、内罰性が高いタイプ。つまり、なにかうまくいかないことがあったら、「自分の力が足りなかった」、「もっとできたことがあったんではないか…」と考えます。そうすると、言い訳が多い部下にいらっとするわけなんですけれど、この「外罰性」という考え方を知ったおかげで、随分楽になりました。仮に言い訳、あるいは言い訳っぽく聞こえるセリフが合ったとしても、「あ~、はいはい。彼女は単に外罰性が強いだけだよね」と割り切れるようになって。

しかも、外罰性の源泉は、幼少期にあるとも言われています。つまり、「間違いをしたけれど、許された体験」がないことがそういう性格を形作ったという説ですね。許されると思わなければ、「自分は悪くない」と言わざるを得ないわけでね。そうすると、言い訳が多い部下というのは、実は内面に弱さを抱えているとも取れるわけです。ますますイラッとする度合いが減りますよね。

管理職は学ぶべき心理学

こういうメリットがあるので、管理職の方は心理学を学んだほうがいいと私は思っています。実は先程の外罰・内罰というのも心理学の一つの考え方なので。ただ、一口に「心理学」と言っても色んなものがあります。中にはざっくりすぎるのもありますし、逆に細かすぎて、「正しいけれど複雑すぎて現場では使えない」というのもあります。

ざっくりすぎるの代表例は、マズローの欲求段階説。人間の欲求は段階になっていて、下から「生理的欲求」、「安全の欲求」、「社会的欲求」、「承認欲求」、「自己実現欲求」。下の欲求が満たされてはじめて上の欲求が出てくるという、段階の考え方は今では否定されていますし、最上位の「自己実現欲求」というのがあまりにも広すぎて、部下を理解するヒントにはなりません。

逆に、欲求を分類すると細かくは70に分かれるという説もあります。個人的には嫌いじゃないですけどね、こういうのは。ただ、ビジネスの現場で使うのは難しいでしょう。

私がよく使うのが、15個の欲求です。アレン・エドワーズさんが提唱したものです。実際のところは、このエドワーズさんの理論はもう少し複雑です。どうやって欲求の強さを図るの?に関していろんな考え方が背後にあります。ただ、ビジネスの現場で使うのは、15個ぐらいの分類がいいかな、という観点で紹介しました。

今や経済にも活かされる心理学

管理職の方は、エドワーズさんに限らず、使いやすい心理学の理論をチェックしてみてください。ちなみに、今日のテーマである心理学を活用しようという考え方は世の中の様々な分野で広がっています。たとえば経済学。

もともとも経済学では、「人間は自身の利益を最大化する」と想定されていました。つまり、頭の中がロジカルな人間ですね。ところが、それでは人間の行動を説明できない。なので、心理的な要素が追加されて、「行動経済学」と呼ばれ、ノーベル賞を受賞したりしています。

私も研究がてら、「心理学を投資に活かすには」という観点で雑誌に連載を持っています。ご興味がある方は「ジャパニーズ・インベスター」と検索してみてください。季刊、つまり3ヶ月に1回発行で、フリーペーパーなので無料です。

 

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この記事を書いた人

MBAの三冠王木田知廣

木田知廣

MBAで学び、MBAを創り、MBAで教えることから「MBAの三冠王」を自称するビジネス教育のプロフェッショナル。自身の教育手法を広めるべく、講師養成を手がけ、ビジネスだけでなくアロマ、手芸など様々な分野で講師を輩出する。

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