いきなりですが、問題です。「ここにバットとボールがあります。二つの値段を合計すると1ドル 10 セントです。バットは、ボールより1ドル高い。では、ボールはいくらでしょう?」。思わず「10セント!」と答えたくなりますが、これは間違い。こんな「思わずやってしまう」人間の行動の背後にある心理が今回のライブ配信のテーマです。キーワードは「進化心理学」。

ダーウィンの唱えた進化を心理学に応用

まずは先ほどの回答。ボールは5セントが正解です。二つあわせて1ドル10セントですから、そうするとバットは1ドル5セント。結果、バットはボールより1ドル高くなります。もしボールが10セントだとバットは1ドル。そうすると、差額は90セントになってしまうので、設問とあわなくなってしまいます。

タネを明かせば当たり前じゃないですか。小学生だってできる計算です。ところが、多くの人は間違えるんです。ついつい、10セントといってしまう。もともとはアメリカで発案された問題ですけれど、一流大学の学生でも半数以上は間違えるんだとか。これ、結局のところ、人間の心理として「分かりやすいものに飛びついてしまう」というものを表しているわけです。あわせて1ドル10セント、バットはボールより1ドル高い?10セントというキリが良い数字だ!みたいな。

「アチャー、やらかしたー」と思わないで下さい。なんでかって言うと、分かりやすいものに飛びつくという心のはたらきは、人間が生存のために備えたという説があるんです。それが、進化心理学。ダーウィンの唱えた進化論の心理学版です。

ダーウィンの場合は、身体の話です。たとえば、ガラパゴス諸島では、同じ鳥なんだけど、島によってくちばしの形が変わったなんて言う話がありました。堅い木の実が豊富な島では、それを割りやすいように、木の幹に潜む虫をつついて食べるのが多い島では、くちばしの形がそういう風に進化する、のようなイメージです。ようするに、生存に最も適した形に変わりますよ、と。

目の前のものにパッと飛びつく心理

それで、ある人が考えたんですね。実は心のはたらきも、同じように進化したんじゃない?って。人間の心も、昔は原始的な、ものすごいシンプルだったものが、生存に最も適したように変わっていったのでは、と。そのひとつが、先ほどの「分かりやすいものに飛びつく」という話。たとえば、大昔、人類誕生の100万年前、イメージで言うと、昔はじめ人間ギャートルズって言うアニメがありました。あんな原始時代です。

マンモスを狩りにいって、たまたま運悪く猛獣に出会っちゃったとするじゃないですか。そこで、「え~っと、どうしよう。やばいよやばいよ」と考え込んでしまう人は、残念ながら猛獣にパクッと食べられてしまうでしょう。逆に、パッと目の前にある逃げ道を走り出すようなタイプの人の方が生存の可能性は高まります。もちろん、正しいかどうかは分かりません。逃げ道だと思ったら、断崖絶壁でそれ以上進めなかった、なんてこともあって

でも、少なくとも、「やばいよやばいよ」と考え込む人よりは生存の確率が上がります。ということは、そいう「目の前のものにパッと飛びつく」という心のはたらきを持つ人の遺伝子が代々引き継がれていくわけです。そうすると、現代に生きる私たちが、そういう思考の癖を持っているのは当然と言えば当然です。

様々なバイアスやヒューリスティック

さっきのバットとボールのクイズはシンプルですけど、実際のビジネスの様々な意志決定のときに、同じような行動パターンがあるんです。

たとえば、ビジネスにも流行廃りってあるじゃないですか。流行ると、みんなパッと飛びつくような。たとえば最近で言えば、「心理的安全性」。詳しくは別の動画で解説しているのでみて欲しいんですけど、ここで言いたいのは、ちゃんと考えずに「うちでも心理的安全性が重要だ」って言っちゃう人が多いってこと

私なんかは、それを見て「おいおい、ずいぶん短絡的だな」と感じてしまいますが、まぁ、しょうがないですね。100万年前から連綿と引き継がれてきた性質ですからね。ちなみに、最近はこういうのはしっかりと研究されていて、進化心理学もそうですけれど、「行動経済学」という分野で体系化されています。実は冒頭のバットとボールの質問を考えたカーネマン先生という方がいるんですが、行動経済学でノーベル賞を受賞されています。そのくらいメジャーだって言うことですね。

日常のビジネスの中でも、バイアスっていう言葉やヒューリスティックっていう言葉を聞くこともあるんじゃないでしょうか。もちろん、目の前にパッと飛びつく意外にも、様々なパターンがあります。私は自分で体系化して、「認識の5大錯誤」って言っています。大きくは5パターンになるわけです。それが、1. 「最後のワラ」の錯誤、2. 「あばたもえくぼ」の錯誤、3. 「赤信号、みんなで渡れば」の錯誤、4. 「武士に二言は」の錯誤、5. 「火のないところに」の錯誤となります

もしご興味がある方がいたら、また紹介したいと思うので、ぜひコメント下さい。

 

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この記事を書いた人

MBAの三冠王木田知廣

木田知廣

MBAで学び、MBAを創り、MBAで教えることから「MBAの三冠王」を自称するビジネス教育のプロフェッショナル。自身の教育手法を広めるべく、講師養成を手がけ、ビジネスだけでなくアロマ、手芸など様々な分野で講師を輩出する。

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