MBAで使われる経営者育成方法ケースメソッド。ある企業を題材にした文書を読んで討議によって学びを深めるというスタイルです。ところがこのケースメソッド、欧米のビジネススクールと日本のMBAでは、扱われ方に大きな差があります。そしてそこには、学び方としてボトムアップ(帰納的)なのか、トップダウン(演繹的)なのかという違いがあります。それぞれの違いを踏まえて、ご自身の経営人材として成長につなげる方法を紹介します。

日本人には謎な欧米式ケースメソッド

まずは告知です。私が主催する、「実践型社内MBAプログラム無料体験会」を開催します。22/08/24 (水)、25日(木)、どちらも14:00 – 15:00ですので、ご興味がある方はぜひご参加下さい。URLは後で概要欄に貼っておきます。

では、本題。MBAの経営者育成法、「ケースメソッド」はご存じの方も多いと思います。ケースというのは、事例。つまり、ある会社がうまくいっている、もしくはうまくいっていない状況を描いたものです。このケース、分量は様々。平均するとA4用紙で10ページぐらいの多い印象でしょうか。そして、それを事前に読んでおいて、クラスルームでは討議によって学びを深めていきます。

ちなみに、私が教鞭を執るマサチューセッツ大学のMBAの受講者の方ならもうご存じですね。組織行動論全7回のうち2回はケースメソッドを使った講義をしています。ところが。実はこのケースメソッド、日米ではかなり扱いに差があります。ひょっとしたらUMassの受講者の方も、現地のスクーリングに参加した人は驚いたかもしれません。

私なんかもそう。ロンドン・ビジネススクールに留学して生まれて初めてのケースメソッドの講義に出るじゃないですか。ドキドキ緊張しながらもワクワクしているわけじゃないですか。ところが、終わった段階ではハテナ?え?何?みたいな。

落とし所がない欧米式ケースメソッド

というのは、欧米の場合ケースメソッドの「落とし所」がないんです。たとえば、私の場合、初めてのケースはホンダの米国進出というものでした。1960年代ぐらいですかね。もともとは浜松の町工場だったホンダが米国に進出するときに苦闘を書いています。アメリカと言えばビッグバイク。ハーレーダビッドソンみたいな、ごついイメージがあります。ところが、ホンダもそういう大型車を中心に米国市場に乗り込んだのですが、鳴かず飛ばず。ところが、そうこうしているうち、ホンダの社員たちが普段使いしていたスーパーカブという小さいバイクが人々の目にとまって、それが売れ始めた。そして、ホンダはそこで、ごついバイク乗りだけじゃない、他のバイクの潜在顧客を見つけた、となります。

それはそれでいいんですが、「そこから何を学べたのか?」がないんです。単にクラスで討議して、「ホンダはこんな感じだったんだって」で終わり。それで、ハテナ?何を学べたんだろう、いったい?となります。

ところが。こういうケースメソッドをたくさんやると、実はそこで得られるものがあります。頭の中に、「勝ちパターン」ができてくるんです。ホンダもアレでうまくいった、別の○○社もこれでうまくいった、また別の□□社もうまくいった…。ということは、ビジネスにおける勝ちパターンは◇◇だ、というものが構築されるんです。心理学では「スキーマ」と呼ばれますが、ものの見方が養われるんですね。

実はこれが、欧米のトップビジネススクールが経営者を輩出する秘訣。ケースメソッドの一つひとつの会社にはそれほど意味はありません。たとえばホンダをどれだけ知ることができたって、自分が自動車業界に行かなければ関係ない。もしくは、たとえ自動車業界に行ったとしても、時代が違うから通用するわけではない。そうではなく、業界横断で、時代も様々な場面で通用するスキーマを構築するのがケースメソッドの本来的な意味合いです。そのために、ハーバード・ビジネススクールでは、俗に2年間で500本のケースをやるって言われています。

トップダウンの学びが適している日本

さて、一方で日本。これはケースメソッドの扱い方が欧米とは異なり、一本一本に明確な「落とし所」があります。講師の役割は、その落とし所を明確に定めて、そこに向けて受講者を誘導することです。

おそらく、日本においてもケースメソッドが導入された当初は欧米的な使われ方をしてたと思います。ところが、それでは日本の受講者は満足できません。結果として学習効果も下がってしまいますから、一本一本を丁寧にやるように進化して行ったんでしょうね。

考えてみれば、日本人手そういう学習スタイルが好きですからね。何かを学ぶとき、「まずはこういうものだ」というルールを教えてもらって、「それを現実に当てはめるとこうなる」と言う流れです。いわば、トップダウンの、もしくは演繹的な学び方です。

でも、欧米は逆。ボトムアップ。ああいう事例、こういう事例、そういう事例、ということは共通するのは、と帰納的な学び方です。正直これは、どちらがいいというものではありません。ただ、私自身は、こんな風に整理しています。初学者が何かを学ぶときにはトップダウン、演繹的な学びの方が有効です。もしくは、効率的と言ってもいいですね。時間をかけずに、たくさんの受講者を一気に、しかもレベルをある程度平準化して教えるのに適しています。

一方で、そこで止まってしまうと、人材としては「そこそこ優秀」止まりです。欧米ビジネススクールが輩出するような世界で通用する経営人材の育成は難しいと思います。なので、より深く学ぶ際には、ボトムアップを意識するというのがお勧めです。

 

前ページ
知られざる現代病「化学物質過敏症」。その対策とはを読む
1DayMBAのページに戻る 次ページ
意外と知らない部下の動機づけの3つのアプローチ。ハーバード・ビジネススクール教授が提唱する「進捗の法則」とはを読む

この記事を書いた人

MBAの三冠王木田知廣

木田知廣

MBAで学び、MBAを創り、MBAで教えることから「MBAの三冠王」を自称するビジネス教育のプロフェッショナル。自身の教育手法を広めるべく、講師養成を手がけ、ビジネスだけでなくアロマ、手芸など様々な分野で講師を輩出する。

ブログには書けない「ぶっちゃけの話」はメールマガジンで配信中