マーケティング、すなわち「ものやサービスが売れるためのしくみ作り」は消費者向けビジネス(B2)を中心として発展してきました。しかし、対法人ビジネス(B2B)においてもその重要性は増しています。その背景にあるのがデジタル化。お客様自身による情報収集が簡単になった結果、営業マンには従来とは異なる活動が期待されています。すなわち、「営業のマーケティング化」です。このような中必要な、B2Bマーケティングの五原則を解説します。具体的には、下記となります。1. 意思決定までに多数の関係者がいて、それぞれのKBFが異なる、2. その商材が企業活動に使われるので、お客様のお客様など、バリューチェーンの中での位置把握が重要、3. 専門品かつ取引額が大きいので、説明に時間を要したり、カスタマイズが求められる、4. 成功事例の 横展開 がやりやすい、5. 価格が「一物一価」ではない。

マーケティング化する営業活動

まずは告知です。このライブ配信にゲストが登場してくれることになりました。5月26日の回になると思いますので、楽しみにしていてください。

では、本題。前回に続いてマーケティングです。ただ、今回は法人向けマーケティング。つまり、企業対企業の取引の話です。これが理解できると、売上アップに繋がります。というか、知らないと損をするぐらいの勢いです。なんでかって言うと、以前のライブ配信でDXの話をしました。このDXって言葉が曲者であるんですが、でもデジタル化が進むのは間違いないです。そのような中、企業の営業活動に変化が起こっています。

一口に言うと、「営業のマーケティング化」とでも言うべきものです。もともとB2Bのビジネスだと、営業マンによる販売活動が中心だったんです。営業マンがわざわざお客様のもとに足を運んで、製品の情報をお届けするというスタイルです。いわば「プッシュ型」の情報提供です。でも、デジタル化の時代、お客様自身が情報収集できるようになりました。しかも、いろんな会社の情報を横並びで見て、比較もできるわけです。そうなると、お客様の方も営業マンに来られても困っちゃうときがあります。むしろ、「聞きたいことがあったら連絡するから」となります。結果として、営業マンの側に、「プル型」、つまりお客様の興味を引きつけるような行動が必要になり、それがさっき言った「営業のマーケティング化」です。

法人マーケティングの5原則

これを踏まえて、法人マーケティングの5原則を紹介します。1つ目が、意思決定までに多数の関係者がいて、それぞれのKBFが異なるということ。KBF: Key Buying Factor 購入を決定する要素。とくに、「バイヤー、ペイヤー、ユーザー」という言い方になりますが、バイヤー、つまり買うという意思決定をする人、ペイヤー、つまりその支出を認める人、さらにはユーザー、買ったあとの製品サービスを使う人が別々の場合があります、というか、別々の場合が普通です。

個人向けの、つまりB2Cのビジネスにおいては、ほぼこれが同一です。自分で買う、と決めて、お金を払って使いますよ、と。ところがB2Bはここが異なるので、難易度が増すんですね。ちなみに、実際のB2Bマーケティングにおいては、先ほどのバイヤー・ペイヤー・ユーザー以外にも、アナライザーと呼ばれる技術的なチェックをする人もいれば、ゲートキーパーと呼ばれる、外部の人の社内へのアクセスをコントロールする人もいて、難易度は増します。

では五原則の次。その商材が企業活動に使われるので、お客様のお客様など、バリューチェーンの中での位置把握が重要。バリューチェーンというのは、ひとつの製品が、原材料から始まって最終顧客に届くまでにどのような役割があるか、というものです。もともとは、ハーバード・ビジネススクールのマイケル・ポーター先生がひとつの会社の中の機能を分析したものですが、今ではひとつの会社を超えて、業界横断でインサストリー・チェーンという位置づけで使われています。

実はこのバリューチェーン、ものすごく大事な考え方です。なので、別の回でまた解説したいと思います。ひょっとして、バリューチェーン?知ってるよ、と軽く考えている方もいるかも知れませんが、結構深いです。バリューチェーンそのものも面白いですし、アンバンドリング、つまりバリューチェーンの分断がいつ起こるのかというのも、ものすごく示唆に富んでいます。

一物一価ではない法人マーケティング

ということで、B2Bマーケティングの五原則に戻って、次。専門品かつ取引額が大きいので、説明に時間を要したり、カスタマイズが求められる。だからこそ営業マンの活躍の余地があります。いくらマーケティング化していると言っても、営業という仕事がなくなることはないと私は思っています。そして、この原則が示唆するのは、一度お客様になっていただいた方と継続的に取引をするのが重要と言うこと。いわゆる、カスタマー・リテンションです。だってそうじゃないですか。せっかく時間をかけて営業活動をしたのに、受注が一回切りだったらもったいないわけです。むしろ継続的に、それこそ生涯にわたってお付き合いさせていただくのが重要です。

では、4番目。成功事例の横展開がやりやすい。例えば、一つのお客様に対して行った営業のプロセスを「勝ちパターン」として確立して、他のお客様のへのアプローチでも使おう、となります。ただ、これ、口で言うほど簡単じゃないですけどね。そのためには、情報を集約して、そしてさらに本部で決めた方針を現場に知らしめる必要がありますからね。

そして最後の5番目が、価格が「一物一価」ではない。これは、カスタマイズによって価格が変わるというところもあれば、割引率が異なるというところもあります。鍵となる、例えば業界トップの大事なお客様だから割引率を高くしても何とか受注をとりたい、などよくあります。

では、まとめてみましょう。1. 意思決定までに多数の関係者がいて、それぞれのKBFが異なる、2. その商材が企業活動に使われるので、お客様のお客様など、バリューチェーンの中での位置把握が重要、3. 専門品かつ取引額が大きいので、説明に時間を要したり、カスタマイズが求められる、4. 成功事例の 横展開 がやりやすい、5. 価格が「一物一価」ではない。

ここまで来ると、「営業のマーケティング化」というのもお分かりいただけたのではないでしょうか。ぜひ、B2Bビジネスに携わっている方は参考にしていただければと思います。

 

前ページ
今や時代遅れの3C、4P~マーケティングの「アジャイル化」とはを読む
1DayMBAのページに戻る 次ページ
話し方にもある「なくて七癖」~聞き手を不快にする損な話し方を卒業するを読む

この記事を書いた人

MBAの三冠王木田知廣

木田知廣

MBAで学び、MBAを創り、MBAで教えることから「MBAの三冠王」を自称するビジネス教育のプロフェッショナル。自身の教育手法を広めるべく、講師養成を手がけ、ビジネスだけでなくアロマ、手芸など様々な分野で講師を輩出する。

ブログには書けない「ぶっちゃけの話」はメールマガジンで配信中