ある投資案件にゴーサインを出せるか否か…。リーダーにとっては、毎日が意志決定の連続です。その際、直感だけでなく、体系的な意志決定法を身に付けておきたいもの。ここでは、管理会計の分野から損益分岐点分析、財務の分野から回収期間法、DCF法、リアルオプションを紹介します。

意志決定のための損益分岐点分析

ビジネスパーソンであれば、大きな決断をしなければいけないときってあるじゃないですか?たとえば、工場の建設。この設備投資にゴーサインを出せるか、それとも撤回か…。悩むところです。

そんなとき、直感だけでなく、合理的な意志決定方法が必要なのはいうまでもないでしょう。そこで出てくるのが、損益分岐点分析。大きな設備投資をすると固定費が発生します。その固定費の増加分をまかなえるのか否か、がひとつの判断になります。

この意味において、損益分岐点分析、あるいは広くは管理会計は経営人材には必須の内容です。なので、以前のライブ配信でもお届けしたとおり、ビジネススクールに留学すると真っ先に会計、アカウンティングを勉強するわけです。

ところが。ところが、人気ないんですよね。管理会計。そもそもが会計ですからね、多くのビジネスパーソンが苦手に思っている分野。しかも、管理がついて管理会計。もう、いかにもめんどくさそう、となってしまいます。まあ、元を正せば私なんかもそうでした。損益分岐点?理屈としては分かるけれど、必要なの?って。ある本にはこんな風に書いてありました。読んでみますね。「今現在同じ利益を生みだしている商品が二つある。ところでこの二つの商品は同じだけ売上高が伸びればやはりおなじだけ利益が増えるのだろうか?」。う~ん、よくわかんないな~。むしろ、投資の意志決定のため。つまり、固定費を回収するだけの売上をあげられるかどうかのチェックのためと考えた方がその意義がピンと来る人が多いと思います。

銀行借入の名残?回収期間法

ちなみに、投資の意志決定の科学的な方法論は、損益分岐点分析だけじゃないですけどね。

ごく単純にいえば、回収期間法。投資した金額が3年なら3年、5年なら5年で回収、つまりそれだけのキャッシュがもたらされるか、を考えることになります。日本企業ではわりと一般的だと思います。ところが、アメリカではこの回収期間法ってあまり使われないんですってね。なんでかな~と考えてみると、実は回収期間法は日本特有の、銀行が強かった時代の名残という説があるんですって。

銀行の融資担当者が、こんなこと言うんでしょうね。「社長、1億円を融資しますよ」、「おぉ、ありがとう」。「ところで、返済期間は5年間なんですが、その間にキャッシュを回収できる見込みはおありですか?」、「う~ん…。大丈夫、うちの投資の意志決定は、5年間の回収期間法でやっているから」、みたいな会話がなされたってあり得そうです。融資担当者にしてみると、これならば焦げ付きの心配がなく安心して貸せる、となります。

アメリカで発案されたDCF法

一方のアメリカ。日本よりも資本の蓄積がありましたから、お金の出し手は銀行だけじゃない。融資期間とか関係なく、長期で考えると投資はペイしますよ、という論法が成り立つわけです。

最もこの論法にも落とし穴があって、同じ1000万円といっても、未来の1000万円と現在の1000万円では価値が違うんじゃないか、という話です。今度は投資家と社長でこんな会話が交わされるんだと思います。

社長が言うわけです。「1億円で設備投資をしたら、20年間にわたって毎年1000万円のキャッシュが生まれるんですよ」と。社長は続けます「20年間かける1000万円。つまり、2億のリターンがあるんです。いいでしょ?」。ところが投資家は反論します。「いやね、社長。仮にその毎年入ってくる1000万円、銀行に預けたとしましょう。今利息が5%だから、来年には1050万円になるんですよ」。社長「まぁ、そうだね」。投資家「同じ理屈で言うと、950万円預けると、利息5%で来年は1,000万円になります。」社長「たしかに」。投資家「と言うことは、来年の1000万円は、今年の950万円の価値しかないじゃないですか。そういう、時間と利息による影響を考え無いと、投資の意志決定はできないはずですよね」、「なるほどな~」。

みたいな話をしたのが、MBAの中で言うとDCF法、ディスカウント・キャッシュフロー法です。将来のキャッシュフロー、20年間にわたって1000万円はいいんだけど、来年の1000万円は今年分に直すと950万円にディスカウント、割引される。2年後の1000万円は今年の900万円になる、と言う考え方です。

MBAでこれを学んだとき、なるほどな~と思いました。もちろん、DCF法が絶対なわけではないです。そもそも、割引率、先ほどの例でいえば5%が妥当なのか否か、と言う議論もあるわけですから。

でも、別に正解じゃなくてもいいから、投資のリターンを精緻に、つまりより正確に、より細かく、より多くの人の納得を得られるように様々な手法が考えられているというところに、「なるほどな~」と感じ入ったわけです

金融ノウハウを日常に応用したリアルオプション

そういう風に感じ入ったという観点でもうひとつ紹介したいのが、リアルオプション。もともとオプションは金融用語です。っていうか、さらに大元は農作物の販売価格の話だったらしいですけどね。

農作物って、豊作だと値段が下がっちゃうじゃないですか。だから、農家さんにとっては、将来の収入が安定して見込めなくて困るんですって。だから、あるとき誰かが考えたわけですね。将来、たとえば3ヶ月後、この果物を売る価格を決めさせて下さいって。それが転じて、金融業界でも、3ヶ月後に株を○円で売る権利、みたいに使われています。はい、ここまでオプション。

次が、リアルオプション。また誰かが考えたわけです。「こういうオプション的な考え方って、金融の世界だけじゃなく、リアルな投資でも使えるんじゃない?」って。たとえば企業買収の際、いきなりではなく、まず買収先企業の発行済株式の20%を買うことにします。この20%を持つことで、その企業の情報を入手しやすくなったり、企業経営に影響を与えることができます。結果として、全面的に買収するか否かの判断をより精度高くできることになります。すなわち、最初の20%の株購入はそれ単体に加えて「次への備え」としての価値があったことになります。

ここまで来ると、私がさっき「なるほど~」と感じたのがよりピンときていただけるのではないでしょうか。意志決定の方法論は、どんどん進化しているんです。最初は単純な回収期間法だったのが、DCF法になり、果物の価格を決めるオプションが、「次への備え」の価値を持つリアルオプションになったり。意志決定を、より正確に、より細かく、より多くの人の納得を得られるようにするためのものだ、と考えると、苦手意識を持ちがちな管理会計も、学ぶ価値が見えてくると思います。

なお、念のための補足です。後半に紹介したDCFやリアルオプションは、MBAの科目で言うと財務(ファイナンス)という分野に含まれます。なので、まずは管理会計から学んでいただいて、その後財務も勉強すると、より役立つはずです。

 

前ページ
学び方には個人差があった。デビッド・コルブ教授の提唱する学習スタイルとはを読む
1DayMBAのページに戻る 次ページ
経営学でもあったオボカタ事件~最新理論を盲信して恥をかかないためにはを読む

この記事を書いた人

MBAの三冠王木田知廣

木田知廣

MBAで学び、MBAを創り、MBAで教えることから「MBAの三冠王」を自称するビジネス教育のプロフェッショナル。自身の教育手法を広めるべく、講師養成を手がけ、ビジネスだけでなくアロマ、手芸など様々な分野で講師を輩出する。

ブログには書けない「ぶっちゃけの話」はメールマガジンで配信中