オンボーディングという言葉、人事の世界では一般的になりつつあります。もともとは「船に乗せる」という英単語だったのですが、今では意味を変えて、新しく入社した人が1日も早く活躍できるようなサポートのことを指すようになりました。日本企業では伝統的に新卒採用者へのオンボーディングが充実しています。そして最近注目されるのが、転職者、つまり中途採用者向けのオンボーディングです。その際、新卒採用者とは異なる取り組みが求められ、それを3つのコツにまとめました。第1がKnow Who(ノウフー)、ノウハウではなくて、どんな人がいるのかを教えてあげる、第2が「常識」を伝える、そして第3がメンターを付けるということです。それぞれについて詳しく解説します。
目次
オンボーディングとは新たに組織に参画した人が1日も早く活躍できるようなサポート
今回のテーマは、オンボーディング。もともとは「船に乗せる」という英単語だったのですが、今では意味を変えて、新しく入社した人が1日も早く活躍できるようなサポートのことを指すようになりました。新卒採用だと分かりやすいですね。10月1日の内定式から始まって、内定者研修、入社式、新人研修などなど。あれ、結局のところ、オンボーディングです。別に単なる記念として入社式をやっているワケではなく、ちゃんと内定した人に入社してもらい、組織へのエンゲージメントを高めて、その後組織に定着してもらうためにやっているワケです。
その背後にある問題意識は、退職者の増加。よく、入社3年にないに辞める若手が増えている、なんて言われていますが、これ、企業にとっては大問題です。採用活動って相当コストがかかっていますからね。苦労して入社まで漕ぎつけたのに、3年経たずに辞めてしまうというのは、投資に対するリターンが見合わないのです。だから、採用活動だけでなく、オンボーディングにも力を入れましょう、というのが最近の流れです。
そしてこれは、中途入社の人にも当てはまります。従来中途採用というのは即戦力扱いでした。入社したら、「前職で成果が上がったから入社できたんだよね?じゃあ、さっそくうちでも成果を上げて」というスタンスで活躍が期待されます。でもこれ、キツいです。新しい人間関係、新しいお客様、ヘタをすれば新しい業界ですからね。いきなり成果が上がるわけもない。あまりにも過剰な期待だと、プレッシャーで成果が出せないし、せっかく入社してくれたのに、あっという間に転職で去ってしまうなんてなったら、やっぱり投資対効果が悪いわけです。
だからこそ、中途採用の人に対してもオンボーディングの重要性は増しています。その際、コツがあって、ざっくり3点にまとめました。1. Know Who、ノウハウではなくて、どんな人がいるのかを知るという観点で、ノウフーです。2点目は「常識」を伝えると言うこと。そして3点目はメンターを付けましょう、となります。
中途採用者向けオンボーディングでは「ノウフー Know Who」を伝える
まず最初のKnow Who。これはわかりやすいですね。新しい組織に入ってくると、そもそもどんな人がいるか分かりません。「この知識はあの人に聞けばいい」というのもありますし、逆に「この手の案件はあの人に根回しておかないと後でめんどくさいことになる」という地雷も分かりません。そういうのを、中途入社の人にも教えてあげるのが、オンボーディングの中では極めて重要です。
では、二つ目。「常識」を伝えましょう。ここで言っている常識というのは、その会社ごとの常識です。これね、転職したことがある人は分かるんですけど、ひとつの組織で「当たり前」とされたことが、別の組織では当たり前どころか、「やっちゃダメ」ということってあるんです。たとえば、ベタな話しとしては、LINEの仕事での利用。これ、会社によってスタンスが180度異なる場合があります。ある会社では、NG。「そういうのは業務の連絡には向かないよな」、「機密情報が外部に流失したら困る」などなど、理由は分かります。
ところが、別の会社ではOK、どころか、むしろ積極的に使って欲しいとされます。既読がついて、読まれたかどうかが分かるし、何せ手軽で便利。部署内でLINEグループを設けているところもあります。
これね、LINE利用ぐらいなら分かりやすいんですよ。あ、そうなんだ。でも、実際のところは、言葉になっていない、ましてや文書でルール化されていないけど、「ウチのやり方はこうなんだ」っていうの、中途採用の人はとても戸惑います。
実は私も、これを体験したことがあります。それこそMBAの中で。私の母校はロンドン・ビジネススクールじゃないですか?ところが、3ヶ月間だけ交換留学で、アメリカのダートマス大学に行ったんです。そこで気づいたのは、先生の呼び方が違うんですよね。ロンドン・ビジネススクールでは、先生もファーストネームで呼びます。私の師匠のスマントラ・ゴシャール先生も、世界的な権威ですが、私は平気でスマントラ、スマントラ、と呼ぶわけです。ところが、ダートマス大学では「先生」呼び。ブランディングの大家でケビン・ケラー先生って言う方がいるんですけど、クラスメートと話すとき、私が「ケビンは…」なんて言うと、モトからダートマスにいる学生は怪訝な顔をするわけです。「おいおい、コイツ、分かってねぇな…」って。
え?じゃあ、なんて呼ぶの?ダートマス大学では、「プロフェッサーケラー」です。要するにケラー先生、って言う感じね。私なんかホエ~って思いましたよ。そうなんだ~って。で、思うわけじゃないですか。「いやいやいやいや、だったら最初からそうなんだって言ってくれよ。そしたらこっちも恥をかかなかったのに」って。でも、常識ですからね。あまりにも当たり前のことは、人間は口に出しません。ルールになっているわけないじゃないですか。「ここでは、プロフェッサー○○呼びですよ」なんて。中途入社の人も、まったく同じです。「常識」が前職とは違っているので、それを伝えてあげましょう、となります。このためのお勧めが、過去の中途入社者のインタビューをすること。「○○さんが入社したとき、常識が違って驚いたことは何ですか?」って。逆に、常識って、モトからその組織にいる人、よくプロパー社員って言われますけど、その人には当たり前すぎて気づかないですからね。むしろ、社外から来た人に聞いて、それをデータベースとして蓄積するのがお勧めです。
オンボーディング・メンターを付ける
では、3つ目。中途入社した人のオンボーディングのために、メンターを付けましょう。メンターって言うのは、直接の上司じゃなくて、アドバイザーって言う位置づけです。これはオンボーディングに限らずメンター制度をやっている会社ってありますよね。組織の中の若手と、役職がうえなんだけどラインはずれている人をセットにして、メンター、メンティーの関係にするって言うの。
これを、中途採用の人には付けてあげましょう。それこそノウフーも「常識」も、「まずはこの人に聞いてみよう」という人を決めてあげるって言うことです。こういう人がいると、安心ですよね。「何かあったら聞いてみよう、何もなくても聞いてみよう」みたいな感覚です。
誰がメンターになるかって言うのにもコツがあって、別に役職は上でなくてもいいですけれど、同じ部署の人じゃない方がいいですね。なんでかって言うと、最初の方にもいったんですけど、中途採用者って即戦力として期待されるじゃないですか。とくに同じ部署の人は、「お手並み拝見」みたいな感覚もあるんです。プロパー社員の人は、思ってるわけですね。「なに?転職?ほっほー、さぞや前職で成果をあげてきたんでしょうなぁ。では、拝見しましょうか、その実力とやらを」
もちろん、そこまであからさまでなかったとしても、そういう空気ってあるじゃないですか。だとすると、同じ部署の人には聞きにくいことってあるんです。「こんなの聞いたら、馬鹿だって思われるんじゃないか?」って。なので、メンターを付けるにしても、同じ部署の人出はない方がお勧めなんです。
この記事を書いた人
木田知廣
MBAで学び、MBAを創り、MBAで教えることから「MBAの三冠王」を自称するビジネス教育のプロフェッショナル。自身の教育手法を広めるべく、講師養成を手がけ、ビジネスだけでなくアロマ、手芸など様々な分野で講師を輩出する。
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