仕事でトラブルが起こった時、上司に「どうしたら良いでしょう?」と聞いてくる部下がいるが、これはダメ。上司にとっても答えることで時間をとられるし、何よりもその部下自身の成長につながらない。このような上司依存体質にさせないための、効果的な部下指導法が、「キーワード化」。典型的な問題点をキーワードにすることで、部下に気づきを促し、行動が変わり、プロフェッショナルとして成長させる方法論を紹介します。

ロジックツリーを部下に作ってもらう

前回のライブ配信の話題は、ロジックツリーで議論を整理すると問題解決がうまく進むことでした。つまり、上司の仕事は議論の「見える化」です。ただ、これをいつまでも上司自身がやるとたいへんになるばかりです。しかも、部下も上司依存体質がついてしまいます。何かあるたびに、「どうしたら良いでしょう?」と聞いてくる部下を持ったらウンザリしますよね。

そこで、部下自身にロジックツリーを作成してもらいましょう。こんなセリフですね。部下が、「これこれの問題があるんですけれど、どうしたら良いでしょうか?」と聞いてきます。それに対して、「じゃあ、まずは状況を整理したいので、問題の状況をロジックツリーで見える化してください」。

もちろん、事前にロジックツリーとは何かを説明します。たとえばウチの社内だったら、「ロジックツリー作成の5大アプローチ」という、お客様向けの教材を社内でも共有します。そして、部下自身にロジックツリーを創りながら、問題の状況を整理してもらうわけです。

ただ、これが意外とたいへん。部下にロジックツリーを作ってもらうと、形は「それっぽい」んだけど、問題解決に使えない、つまり議論の見える化に役立たないロジックツリーが出てきます。

てんやわんやのセミナーをロジックツリーで整理

たとえば、前回の話題でもあった、てんやわんやのセミナー。参加者のレベルが幅広すぎて、質問に対応するのにたいへんだったというもの。解決するためのロジックツリーとしては、

セミナーの成功
 ├講師の要因
 ├受講者の要因
 └オペレーターの要因

に分けました。

この下をさらに細分化していくわけですが、部下にロジックツリーを作ってもらうと、いつの間にか、「受講者のレベルをそろえるために事前チェックテストをやってもらおう」という打ち手に話題が移っていくんです、たいていの場合。

いや、違います。それは、ロジックツリーの使い方としては間違っています。まずここでは、「どんな要因か」を徹底的に洗い出すわけです。打ち手に行かずに。だからむしろ、受講者の要因だったら、その下はパソコンのスキル、Zoomのスキル、コミュニケーションスキル、のように分かれるべきです。

同様に悪い例として、ロジックツリーを創りながら、「接続確認は発注元にやってもらおう」という「誰がやるか」の話に移っていくんですね。これも、よくある話。でも、これも話題がずれているのでダメです。ということは、上司の役割は、部下が作成したイマイチなロジックツリーの悪いところを修正するように指導することです。そして、その指導をしながら、部下が自信でクオリティの高いロジックツリーを創れるようになってもらうように仕向けることです。

ロジックツリーのありがちなミスをキーワード化

そして、その時にはコツがあります。それが、「キーワード化」。ロジックツリーの悪いところを指摘するじゃないですか。その時に、「このような症状、つまり問題点は、○○と呼ぶようにしよう」というキーワードにするんです。たとえばさっきのいつの間にか打ち手にいってしまっている問題。「こういうのは、フライング打ち手って言うようにしましょう。」と、部下と合意するんです。フライングって言うのは、陸上競技なんかで、スタートの合図がなる前に走り出してしまうアレですね。イメージ分かるでしょうか?

そうすると、「あ、またフライング打ち手」ですね。と言う会話ができます。そのうち部下自身もロジックツリーを創りながら、「これってフライング打ち手かなぁ」とチェックできるようになります。キーワードのアンテナ効果って呼んでいますが、典型的な失敗例をキーワードとしておぼえることで、まるでアンテナが立ったように感度が鋭くなります。

そして、こういう法則がたくさんできてきたとしましょう。そうしたら、それをリストにします。今度、若手にロジックツリーを作ってもらう際には、事前にチェックリストとして渡してあげましょう。「これからロジックツリーを作ってもらうけど、その時に気をつけてもらうのがこれね」っていう風に

もちろんその際、悪い例とその改善法までつけてあげればベストですね。そう、実は、キーワードは大事なんですが、そのような抽象的なコンセプトだけでは、若手のような経験がない人は動けないんです。「言ってることは分かるんですが、具体的にどうしたら良いか思いつきません」って。

なので、それを具体化する。それが先ほどの、悪い例と改善法です。この、抽象と具体手のセットがあれば、たとえ経験がない人でも正しい方向に進んでくれます。しかも、こうやって、ノウハウがたまっていく、そしてそのノウハウをメンバーが共有する、そうすると組織としての問題解決力が上がります。ということで、個々の部下の指導をしながら、組織全体へのインパクトを考えるという、これもまた上司にとって必要なスキルにつながるわけです。

ただ、そこにはもうひとつ大きな壁があって、それが「組織文化」というものですね。これへの対応を、次回は考えてみましょう。

 

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この記事を書いた人

MBAの三冠王木田知廣

木田知廣

MBAで学び、MBAを創り、MBAで教えることから「MBAの三冠王」を自称するビジネス教育のプロフェッショナル。自身の教育手法を広めるべく、講師養成を手がけ、ビジネスだけでなくアロマ、手芸など様々な分野で講師を輩出する。

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