「社内政治」と聞くと嫌悪感を持つ人もいるが、現場の管理職にとっては学ばなければならない「必須科目」。逆に、社内政治力がないと実行力がないので、管理職としての本分を果たせない。では、どうやって社内政治力をアップするか。その答が社内政治の五大源泉。1. 社内の情報通になる、2. 権威を借りる、3. リソース配分の権利を握る、4. 同意見のグループを形成する、5. 専門スキルを高める、からなる。そして、本質的に重要なのは、この五大源泉を知ることで社内が極度に政治化することの「抑止力」を身に付けること。

社内政治反対派だった私が「転向」したわけ

「社内政治」って聞いたときどう思います?イヤな感じ、しますよね。できれば巻き込まれたくないな、って。

私もそうでした。社内政治なんて馬鹿らしい。理屈が通っていれば相手は納得してくれるはずだ、なんて。

そう言えば、昔はディベートなんてハマっていましたね。例の、肯定側、否定側に分かれて討論ってやつね。いかに自分の主張を論理的に述べるかって言う。その背後にあったのは、いかに自分の考えを理屈で説明するか、と言う考え方です。

でも、この本を読んで180度変わりました。Managing with Power。パワーは「力」じゃなくて、「権力」。権力を握ってマネジメントをしましょうね、と提唱しています。MBAに2年間留学するとたくさん本を読むじゃないですか。その中で一番影響を受けた、というか衝撃だったのがこちらの本。

まずビックリしたのは、こういうのが研究されているんだってこと。発行されたのが1992年です。日本でも、最近はボツボツ社内政治の本も見るようになりました。でも、欧米のビジネススクールでは、そんな昔から社内政治の研究が進んでいたんだってのが驚きその1。

そして驚きその2は、社内政治を肯定的に捉えているから。いや、肯定的、というか、必要悪。マネージャーが物事を推し進めていくためには社内政治が不可欠である、と。それも、著者の勝手な感想ではない。ちゃんと調査に基づいています。たとえば、こんなふうに、調査によってね。ここでは、部門間の調整って、社内政治が必要ですよね、と結論づけられています。

それもそのはずで、著者のフェファー先生はスタンフォードビジネススクールの先生。アメリカでは超有名です。

社内政治力の五大源泉

もうね、ショックですよ。昔の自分は、なんてイノセントだったんだって。理屈が通っていれば相手が納得してくれる?そんなことはないわけです。「何を言ったか」以上に「誰が言ったか」が重要なわけで。あまりのショックに、自分バージョンも作ってみましたよ。「社内政治の五大源泉」って呼んでいますけど、どうやって政治力を持つんだって言うの。

これ、自分で言うのもナニですがよくできていて、その五つというのがこちら。1. 社内の情報通になる、2. 権威を借りる、3. リソース配分の権利を握る、4. 同意見のグループを形成する、5. 専門スキルを高める。

たとえば「権威を借りる」っての。分かりやすくいうと、虎の威を借る狐、みたいな感じです。私が以前勤めていた会社に、これすごく上手な人がいて。もちろん皮肉ですよ。人間としては最低だけど、虎の威を借るのが上手な人。何やるかって言うと、社内の偉い人とのランチをするわけです。これだったら、まだ分かる。で、それを社内のカレンダーに登録するわけです。「例の件で」って言うタイトルをつけてね。

そうすると、周りの人は思うじゃないですか。「例の件?」ってなんだ?なに、この人、社内のあの有力者とそういう会話をする間柄なの?って。私もひと頃、そういうのは意識して行動していました。

社内政治は伝染する

ところが。あるとき、突然馬鹿らしくなるわけです。そういう社内政治的な行動が。だってね、社内政治って伝染するんですよ。うつるんです。誰か一人が政治的な行動をするじゃないですか?周りの人は思うんです。「あ、この組織では、ああいうことが許されるんだ」、「ああいう人が昇進するんだ」って。

結果として、社内カレンダーには「例の件で」っていうのがたくさん並ぶことになります。もちろんそれは、たとえね。ただ、多くの人が他人の顔色をうかがいながら、誰が政治力を持っているかを気にしながら仕事をすることになるわけです。

で、あるとき思ってしまったの。あ~、馬鹿らしい。こういう、社内で人の顔色をうかがいながら働くのはイヤだって。だって、意味ないじゃないですか?社内政治の力を得て何をするの?出世?でも、出世したとしてもまたそこには社内政治が待っているわけですよね。

そうじゃなくて、ちゃんとお客さんのために仕事がしたいよな、って思います。ちゃんと社会に貢献できるような仕事がしたいよなって。でも、そう思っちゃった人間は、その組織にはいられませんよね。だって、社内が政治化しているからね。さっきもいったとおり、伝染性が高いですから。

今思えば、もっとできたことはあっただろうな、と思います。社内政治の伝染を防ぐことができたんじゃないかって。でも、その時には、ダメだった。世の中には、社内政治が好きで上手な人間っているじゃないですか。それこそ、ナチュラルに「例の件で」ってカレンダーに登録できるような人間が。

そういう人間の行動にストップをかけることができなかったって反省があります。まぁ、だからこそ社内政治の五大源泉が大事なんですけどね。このフレームワークを使って、誰が政治的な行動をするかを理解する。そして、その政治的な行動をストップするような手を打つ。そう、社内が政治化するのを止めるための知識が、この五大源泉の本当の意味合いです。

 

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この記事を書いた人

MBAの三冠王木田知廣

木田知廣

MBAで学び、MBAを創り、MBAで教えることから「MBAの三冠王」を自称するビジネス教育のプロフェッショナル。自身の教育手法を広めるべく、講師養成を手がけ、ビジネスだけでなくアロマ、手芸など様々な分野で講師を輩出する。

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