レストラン「きちり」における人材育成のキモである「きちりMBA」の話を聞いてきたので報告します。一見すると個々の人材の能力開発の話ですが、実はそのウラには「プラットフォーム」となるべく、業態の拡張をにらんだ戦略的取り組みとお見受けしました。

外食産業の雄きちり

まず、株式会社きちり。

全国に「KICHIRI」ブランドのカジュアル・ダイニング展開しているほか、GABAブランドのおにぎり屋さんも展開しているので、一度は行ったことがある人も多いのではないでしょうか。全般にオシャレなイメージがありますね。

ただ、外食産業の例に漏れず、同社も人材の確保には苦労してきたとのこと。世の中全体では、俗に大卒3年以内の離職率が50%近いともいわれる業界です。そう言えば、ひところ「ワンオペ (ワンマン・オペレーション)」という言葉が問題になったのも、外食産業でした。

きちりも例外ではなく、2012年の離職率は44%。それが、様々な施策の結果2017年には23%まで下がったとのこと。もちろん色々な手は打っており、たとえば家族同伴での社員旅行で一体感を高めるなどもやっているそうです。そして、その中でもキモとなるのが「きちりMBA」なのです。

社員同士が教え合う「きちりMBA」

きちりMBAでは、社員同士が教え合うと言う理念の元、社員が自身で講義を作るという形になっています。その内容が社内のナレッジセンターで認められると、晴れて講義を実施できる権利をもらえるとのこと。大学の一般教養のイメージでカリキュラムが作成され、すでに60を越える講座が展開されています。

なお、誰がこの「講義をする権利」を得たかは組織図の中で、「バッジ」と呼ばれる印をつけて讃えているとのこと。

「バッジ」は、ゲーム的な感覚を人材マネジメントに使おうという「ゲーミフィケーション」で広く取り入れられているので、それに習ったしくみでしょう。

プラットフォームの「核」としての人材育成

ただ、きちりMBAの本当に面白いのは、これを社外にも広げようという取り組みであると感じました。「きちりプラットフォーム」と呼ぶそうですが、人材育成のしくみに加え、バックヤードの構築、仕入れ先の紹介など、「外食産業のエコシステム」を構築しようというものです。

似たような発想では「フランチャイズ」がありますが、これはフロント側を画一化して、ブランド力アップと効率的オペレーションをするもの。ただ、フランチャイズは、おそらく外食の中でもきちりが狙うセグメントには必ずしもマッチしないのでしょうね。というのも、外食の業態は栄枯盛衰が激しく、たとえば一世を風靡した東京チカラめしが苦戦していると言うニュースなどを聞くと、フロント側を画一化するのにはリスクが伴うと考えられます。

これを乗り越えるのが「きちりプラットフォーム」で、フロント側はそれぞれのお店のオーナーに任せて、バックエンドと人材育成を中心に効率化しようという試みは、要注目です。

kichiri photoPhoto by frontriver

この記事を書いた人

MBAの三冠王木田知廣

木田知廣

MBAで学び、MBAを創り、MBAで教えることから「MBAの三冠王」を自称するビジネス教育のプロフェッショナル。自身の教育手法を広めるべく、講師養成を手がけ、ビジネスだけでなくアロマ、手芸など様々な分野で講師を輩出する。

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