「不安退職」という言葉、ご存じでしょうか?「今の職場では成長できない。このままでは世の中で通用しないビジネスパーソンになってしまう」という不安に駆られて転職してしまうことを指します。従来型の「不満退職」とは異なる傾向が、徐々に広まりつつあります。このライブ配信では、その不満退職への対処法を、ミクロの観点とマクロの観点から考察します。もしも、「若手が3年で辞めてしまう」という問題意識を持っていらっしゃったら、最後までご覧下さい。

不安退職とは

「職場で若手が辞めてしまう」。よく聞く話です。実際データとしても、入社後3年以内に辞めてしまう若手が3割もいることが検証されています。

ただ、その辞める理由に、新たな要素が加わっているそうです。それが、将来に対する不安。「このまま、この会社で働いていても成長できない。世の中で通用しないビジネスパーソンになってしまう。」という不安です。

たしかに、と思いました。というのは、最近世の中で大きな事件が起こっているじゃないですか。コロナ禍、ウクライナ戦争、あるいは、ChatGPTの人気なんてのもひょっとしたらそのぐらいインパクトがあるかもしれません。

そういう中、若手のビジネスパーソンは思うんでしょうね。たとえ世の中がどうなっても、万が一今の勤務先が潰れても、生き残っていける実力を身に付けたい。

ところが。入社後の会社がゆるいと、そこでガッカリです。「なんだ、指導して、成長に導いてくれるんじゃないのかよ」という気持ちになります。おそらくそういう会社は、先輩も上司ものんびりしているんでしょうね。みんないい人なんだけど、迫力がないというか。若手は思っちゃいます。「何年かこの会社で仕事をしていると、ああなっちゃうのか」って。いかがでしょう、ますます辞めたい気持ちが高まると思いませんか?

しかもですよ。今の時代、みんな転職サービスに登録しますよね。テレビのコマーシャルであれだけ、「その気はないけど登録しておくか」みたいなこと言われると。そしたら、スカウトメールが来るわけじゃないですか。そこに、「今の仕事よりも10倍早く成長できる環境です」って書いてある。

ドキッとしますよね。心が動きますね。同時に、焦ると思います。「今はスカウトメールが来るけれど、今の職場で数年働いていたら、こういうスカウトメールも来なくなるんじゃないか」って。そうしたら、そのチャンス、というか、本当のところはチャンスかどうか分かりません。でも、それを逃したくないという気持ちになって、転職しちゃうということなのでしょう。

こういうのを、「不安転職」と言うそうです。ワークス研究所の主任研究員の古屋先生がネーミングされたそうですけれど。もちろん、昔ながらの理由で辞める人は当然います。「あの上司の下では」、「待遇が悪い」、「業態に将来性がない」などなどの、いわゆる「不満退職」です。

でも、それ以上に見逃せないのが「不安退職」。おそらくですけど、優秀で感度が高い若手ほど「不安退職」になりやすいんじゃないでしょうか。だとしたら、これをほっておくと大きな問題になります。

不安退職を予防する上司の指導力だが…

やはり解決策の第一としては、上司の指導力アップが必要なわけです。とくに、今課長クラスになっている方って、若い頃に適切な指導を受けていない可能性があります。例の、就職氷河期の頃、採用数をぎゅっと絞った時期がありました。

そうするとその下の世代は、上がぽっかり空いている、なんてことが起こるんだそうです。職場で、自分の上は50代の部長、みたいな状況。つまり直の上司から細かい指導を受けにくい状況。結果として、「指導された経験がない」だから「指導の仕方が分からない」となります。

そんな人には、やっぱり一般論、経営学としてね、部下の指導はこうですよ。あるいは、こういうのはやっちゃダメですよ。と言うのを教える必要があります。教えるって言うか、練習も含めてですよね。理屈で分かるだけじゃなくて、ロープレなんかの練習も交えて、現場でできるようになってもらいましょう、と。

ただ、この状況、構造的な問題もあるそうですね。上司の指導力アップは間違いなく必要だけど、それ「だけ」ではちょっとキツいです。背後にあるマクロの状況も確認しましょう。様々な法制度などです。

たとえば、働き方改革関連法案による残業規制。時にはたいへんな仕事を任されたのが、成長のきっかけになったってご経験、ある方多いと思います。でも、今はそれダメ。残業時間でアウトになっちゃいます。

あるいは、パワハラの厳罰化。上司にそのつもりがなくても部下の方でパワハラだと受け取れば、問題になりますからね。特に大企業では、上司のその後のキャリアに影響があります。

こんな話を聞いたことがあります。ある大企業にお勤めの方で、自分は成果も上げているし評価も高い。なのに、なぜか昇進させてもらえない。いったいどうしたことなんだと不満を持っていたら、あるとき、ひょっとしたら退職後だったかもしれませんが、何かのきっかけで自分の人事評定を見る機会があった。そしたら、部下に密告されていたんですって。「あの人パワハラだ」って。

まあ、密告という言葉は悪いですけど、部下の方で上司に直接言わずに、人事にチクることはありますよね。もうそれで、上司のキャリアはパー。なかなか難しい状況です。

会社の「仕組み」で不安退職を予防する

だから、「不安転職」の対処に対しては、上司の指導力と共に、会社が上司を守ってあげるという視点も必要だと私は思っています。もちろん、何でもかんでも守るってわけじゃなくて、ちゃんと公正な判断をしてあげる、という感じかな。

そういう「仕組み」を整えた企業が、「不安転職」を乗り越えて優秀な人材に活躍してもらって、業績を伸ばしていく時代なんだと思います。

あ、ちなみに「仕組み」って言う観点では、以前のライブ配信でお届けしたタニタさんの仕組みなんかも面白いですよね。例の、正社員の雇用契約を切り替えて、外部の業務委託契約になってもらうと言う話。あれだったら、残業時間の規制に引っかからずに、負担はあるけど成長につながる働き方ってできそう。

ちなみに、タニタさんでは、そういう場合にフィードバックとかどうしているんでしょうね。指導ととられちゃうと、業務委託って言う立て付けが疑われちゃってうまくいかないのかな。業務委託なんだけど、「労働者性」があると、トラブルの元だそうですからね。

あるいは、テクノロジーの活用で解決するというのもアリですね。ChatGPTを上司代わりにして育成を図る、なてのが、たぶん近い将来実用化されそう。その人にカスタマイズされたアドバイスによる学習と成長というのは、これから伸びる分野だと思います。

ただ、短期的には難しいですけどね。単純な解決策はないと思います。ぜひ全社一丸となって「不安退職」に対抗策を考えていただくといいのではないでしょうか。

この記事を書いた人

MBAの三冠王木田知廣

木田知廣

MBAで学び、MBAを創り、MBAで教えることから「MBAの三冠王」を自称するビジネス教育のプロフェッショナル。自身の教育手法を広めるべく、講師養成を手がけ、ビジネスだけでなくアロマ、手芸など様々な分野で講師を輩出する。

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